弁護士の素顔 写真,ギャラリー 小説,文学,司法試験合格体験記 法律関係リンク集 掲示板


2004年12月28日(火) NYの街角:断章



ほの暗く、暗い。日没には早すぎる。が、暗い。路上には今朝から細々と降り続いた細かい雪が、薄く積もっている。わずかな風しかないが、その風の動きに連れて、雪は流れていく。道路に垂直に立つ摩天楼の壁に、その倫理的な垂直性に挑戦するように、なだらかに吹き溜まっている。

荷の上げ下ろしをする黒人は白い息を吐いている。その体からも蒸気が立ち上っているような気がする。しかしそれは路上のマンホールから漏れたスチームの蒸気だ。円形の鉛茶色をした金属の隙間から気体が吹き上がり、路上労働者に絡みつく。この光景は何かを思い出させるような気がする。が、そのまま歩みを進める。それは彼の人生に無関係だからだ。

太ったショッピングバッグ・レディがいつもの所定の位置でカップを持って立っている。その前を通るとき、威嚇するような強さで小銭の入ったカップが振られる。チェインジ、チェインジ、クォーター、ダイム、チェインジというその真摯な祈りの文句が遠ざかる。

尖塔のごとく伸びたビルの高層階では、路上とは無関係な人生が営まれ、「大きな中心」と名づけられた駅ビルの窓からは忙しそうに手足をトレーニング機械の上で反復運動する男女の姿が見える。上下を逆さまにして鎖で括り付けられた金色の樹木が、そのビルの入り口付近に見える。それが何を象徴しているのかはわからない。そのさらに上には、4つの米国国旗が並べられ、その中央に作り物の鷹が据えられている。鷹の眼は厳しく、彼方の国連ビルへと向けられている。

さらに上へ。天上をスクレイプする構造物の先端は、マンハッタンを発明した男の創作による「フェリス的空洞」へと消えている。無数の細かい白い破片がその空洞を埋める。あらかじめ計画されていたものでもあるかのように。

そして僕は視界を失い、居場所をなくす。全てが白くなり、この静かな喜劇は幕を閉じる。







[MAIL] [HOMEPAGE]