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2003年04月13日(日) 掌編小説:傘を持っていない


細かい雨が降っている。ガラス窓に斜めに流れる水滴の連なりを見ている。傘を差さない人の群れが、幾分前かがみに小走りに行き過ぎる。キーを叩く手が止まっているのに気付く。画面に表示された文字が意味するところを考えながら、でも,結論は出ている、と思う。雨を逃れた人々が喫茶店に入ってくる。粉っぽい湿気が半ば開かれたドアから侵入する。既に紅茶は冷めている。何度目かのハービー・ハンコックのMaiden Voyageが流れている。傘を持っていない。帰るべき場所も方法もない。紅茶を啜る。追い求めていた浮遊感は意外なほど苦い。カップの縁が薄く汚れているのが見える。紙の束で切った人差し指の先が鈍く痛んだ。


"at a cafe"







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