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2002年12月05日(木) 日々雑感:本郷、日暮れ時に


約束の時間より、少し早めに着いたので、本郷の大学構内を見て回る。キャンパスの木々もすっかり冬の装いである。生協の食堂を見て回り、書店に立ち寄る。全く何一つ変わっていない。道路のひび割れの位置まで同じだ。昔ここを歩いていた時のことを思い出す。そのときも下を向いて歩いていたのだ。それでも、どことなくキャンパスの光景が虚構めいて見える。スーツを着て、ネクタイを締めているからだろう。

N教授と久しぶりにお会いし、推薦状にサインを頂く。近況の報告をしつつ、好機とばかりに、アルチュール・ランボーの「イリュミナシオン」について、尽きせぬ疑問をぶつけてみる。教授は親身になって疑問に答えてくださる。ソルボンヌでの興味深い講義を予定しているという話や、予定されている対訳本の話など、話題は尽きない。弁護士になっても足を洗いきれていないのですね、と微笑みながら指摘を受ける。もはやアカデミックな世界からは遠く離れてしまったにもかかわらず、文学にしがみついている自分に改めて気付かされる。そう、潔くないのだ。

大学時代の同期が数名研究室にいたので、お互いに近況報告。彼らは既にフランスへの2年間の留学を終えており、院に残って本格的に研究を続けている。一人は、今もエコル・ノルマルに留学中だ。事務所の話や、仕事、留学の話をすると、「ここにいると、まるでみんなから取り残されてしまったような、そんな気になる」とポツリという。いや、むしろ、取り残されているのは私の方だと思う。

お礼を言って外に出ると、既にあたりは暗くなりかけている。本郷3丁目から電車に乗ろうと、赤門に向うと、良くたむろしていた教育学部の灯りが目に入る。懐かしさから、学生ラウンジをちょっと覗くが、勿論面識のある顔はない。

ラウンジを出たあたりで、知り合いに良く似ている人を見かける。しかし、その人は就職したはずだし、こんなところで会うはずもない。それでも余りにも似ているので、声を掛けるべきかどうか迷う。迷っているうちに雑踏に紛れて見えなくなる。通りを歩く学生の姿が、やがてコートの襟を立てたサラリーマン姿の流れに飲み込まれていく。悔恨と感傷の味だけが、口の奥の方に残るが、それも一時のことだろう。やがて地下鉄の駅の明るい照明がこれら全てを覆い隠してしまう。







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