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2002年09月01日(日) 書評:ユイスマンス「さかしま」(澁澤龍彦訳)


ユイスマンスの「さかしま」読了。

人工的な楽園を自らの周りに創り出そうとするその試みにより、やがて自縄自縛になる主人公の心理は、はたから見ている分にはコミカルとも言えようが、やがて主人公デ・ゼッサントのことを軽侮することができなくなっている自分に気づくはずだ。「さかしま」を最後まで笑い通せる人間がいたとすれば、その精神的健康に感嘆するほかはない。あるいは、この作者のブラックユーモアを正確に理解している人間ならば、皮肉な笑いの仮面のもとにその一切を笑い飛ばせるのかもしれない。残念ながら、私はそこまでの透徹した視線を持つことはできなかった。

特定の分野に偏ってはいるが、文学、芸術の該博な知識をもち、その独自の視点を涵養しているデ・ゼッサントすなわちユイスマンスの語り口は、膨大な脚注とともに読むと教養書としての役割も果たすだろう。

河出文庫のオディロン・ルドンの表紙がこの小説によく似合う。




"Cafe@Ichigaya_020831"







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