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2002年08月08日(木) 日々雑感:閉ざされた部屋


レンタカーのハンドルを握り、海岸沿いを走らせる。その先に何があるのかわからないまま、適当に走り続ける。いくつかの峠を越え岬を過ぎると、そのホテルに行き着いた。車を斜面に停車させ、キーを抜く。玄関には制服を着たホテルマンが立っていた。多少の困難を覚えながら、ホテルマンの前を目礼して過ぎ、喫茶室へ向かう。

喫茶室からは海が見える。アメリカン・クラブハウス・サンドイッチという名の軽食をとる。海だけではなく、不自然なまでに青い空とプールも窓から見える。プールサイドでは逗留客が日光浴をしている。この光景が伝統ある川奈ホテルにふさわしいのかどうか、判断がつかない。少なくとも、判断する権限は与えられていないという結論に達する。サンドイッチをコーヒーで流し込むと、光の充溢する喫茶室を去る。

ホテル内を散策する。案内図にビリヤード室の表示を見つける。ホテルにビリヤード専用の部屋があるというのは初めて見る。多少の興味を喚起されて、その部屋を探すことにする。やがて通路の脇に該当する扉を見出す。その扉は重かった。少々無理をして扉を開けると、ただ暗い空間が広がっている。窓もなく、明かりがない。目が慣れるとカバーの掛かったビリヤード台が見えた。白いカバーは、死体にかけられる布のようだ。薄く埃が積もっているようにも見える。部屋の奥から、ひんやりとした黴の匂いのする空気が流れ出てくる。長期間使用されていないのは明らかである。音を立てないように注意しながら、扉を開けたときの動作を正確に逆に反復する。

空間は再び封鎖されたのに、妙な心の高ぶりを感じる。その心の動きを名づける言葉を捜すが見つからない。諦めてホテルを出て、再び車を走らせる。車のハンドルは日光を浴びて熱くなっていた。ハンドルを強く握り、森を抜ける。それからしばらくして、罪悪感という言葉が見つかったとき、その言葉に含まれるニュアンスの強さに少しばかり驚いた。




"At the Hotel_020808"







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