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2001年09月13日(木) 日々雑感:世界と君との戦いでは世界を支援せよ



契約書とリーガルオピニオンの修正作業をしていると、突然、1通のメールが入った。題名は付されていない。

Both of World Trade Center Buildings in New York are now on fire as a result of crash of airplane!

弁護士から事務所内のAll Lawyers宛てに回ったメールである。
続いて、NYの弁護士事務所とのミーティングがキャンセルされたとの情報が入って来た。その弁護士によれば、電話の背後で叫んでいる声が聞こえていたとの話であった。

同僚で、今NYに留学中、研修中の面々の安否確認をした方がいい、との声が上がり、早速電話をかけてみるが全く繋がらない。世界貿易センターのすぐそばに住んでいる先輩が心配だ。しばらくして、Sidley Austin Brown&Woodが世界貿易センターに入っていることに気付いて慄然とする。ここは、私も親しくしていた先輩弁護士が研修しているLaw firmである。

みな青ざめて連絡を取ろうとする。机を並べていた先輩弁護士が無事か、私も、何度も何度もご自宅に連絡を試みる。その度に「この地方への回線は現在busyである」とのアナウンスがむなしく流れる。

その間もニュースでは、ビルの崩壊を伝えていた。

あの下に、何人の人がいるのか想像してみて絶句する。
あの下に、よく知った顔が居るかもしれないのだ。
実に貧困な想像力しか持ち合わせないので、身近な人がまず真っ先に浮かんでしまう。

事務所の関係者の全員の無事が確認できたのは、翌日であった。亡くなった方や、その親族、友人の方には、本当に気の毒としか言いようがないが、ほっとしたことはやはり否定しようもない事実だ。自分の身勝手さに嫌悪感を催しつつも、犠牲者のご冥福をこころからお祈りしたい。

(私信:Y先生、お電話有難うございました。本当にご無事でなによりです。)

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ここのところ、戦争の話題とカミカゼの話題を続けていただけに、自己嫌悪ではある。

一連の事件は、テロリストの犯行との見方が強まり、いま、報道では、テロリストやその支援者が特定されたとのニュースが流れている。

彼らテロリストは、その信念に従い、その信念に殉じたのだろう。彼ら自身の内部では、完結した論理によってその行動が支持されていたのであろう。神風特攻隊が美化されたのと同じで、反米感情を抱く国々においては、彼らは英雄なのかもしれない。

しかし、カフカのこの言葉が、今私の胸に強く響いている。

「世界と君との戦いでは世界を支援せよ」

逆説的な言葉ではある。誤解を招きやすい言葉かもしれない。しかし、自分自身を支える信念を常に検証し、相対化する契機となる言葉である。ここでいう「世界」はどこまでも広い。「世界を支援する」場合には、また、同じ言葉に束縛されるはずである。

***

アメリカ国内は、報復ムードが高まっているようであるが、冷静になってもらいたい。ここで、テロリストのみならず、一般の人々を巻き込むような報復をするとなると、まったく話が別になる。本当に、冷静になってほしい。こんなときだからこそ。今は平和な極東の島国の片隅から、ここのところそればかりを願っている。







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