弁護士の素顔 写真,ギャラリー 小説,文学,司法試験合格体験記 法律関係リンク集 掲示板


2001年09月04日(火) 書評:カズオ・イシグロ「僕たちが孤児だったころ」

俗に我々が「9月末案件」と呼ぶ取引の案件のため、本日も深夜作業となる。

毎日のように〆切の来る案件に追われている。
これから、我々渉外系の事務所に属している弁護士は、9月末案件、12月末案件、3月末案件という大きな山を越えなくてはならない。
僕らの長い冬がまた来るのだ。

反面、読書量が何故か増えている。
カズオ・イシグロ「僕たちが孤児だったころ」読了。

相変わらず絶品の描写である。
抑え目の文章といい、読者に対して不誠実な主人公の造形といい、ストーリーテリングの基本を踏まえた秀逸な作品といえる。

ただ、「日々の名残り」と比べると、やや格が落ちる気もする。
とくに日本人の古い友人との再会のくだりは、構成的にも疑問符がつく。

個人的には、なまじドラマティックでない内容の方が、この作者の持ち味が生かされると信じている。ドラマ的に盛り上がる所を上手くかわすところにこの筆者のユーモア感覚が感じられるのである。内容はさておいても描写だけで読ませるというのは相当な力量である。

いま、あの戦争を書くことが意味を持つというのは、上手く説明できないけれど、感覚的にわかる。それは、例えば日本において、60年代にあの戦争のことを書くというのとも違うし、70年代とも違うし、90年代とも違う。

改めてあの戦争を書いてみたいと思う。







[MAIL] [HOMEPAGE]