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神楽坂という街が好きだ。それも、秋雨の降る神楽坂がいい。
神楽坂の近くに越してきて早くも3ヶ月が経過しようとしている。この街は、旧い欧羅巴の町並みのように、細い路地が入り組んでいる。昔訪れたブルージュの街並みを思わせる。
この路地を、ただ通り過ぎてはならない。坂の途中の数々の石畳の道が、僕の足早の歩みを禁じる。路地の奥にこそ、味わいぶかい店がある。 長居したくなるような喫茶店、しっとりと落ち着いた漆器店や、ブルターニュのクレープを食べさせるブラッスリ-、足袋・下駄の老舗、モロッコ料理店、一人で入りたくなるバーの数々。
未だに芸者置屋があるこの街には、一方で、古くからの住人の生活感が充溢している。
神楽坂が好きだ。坂の街には、石畳がよく似合う。実際には石畳はごく限られた路地にしかないが、それでも僕には十分である。
今まで通り過ぎてきたいくつかの街のように、この街を離れることがあれば、私は夢の中で何度となく思い出すだろう。
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