|
静寂が訪れる。
深夜、無人のオフィスにつかの間の安息が与えられたのだ。
動きを止めた優雅な機械たち。 あるいはかつて機械と呼ばれたものたち。 待機中の50Hz電子音の響きは、歴史の埃に埋もれ忘れ去られた古フーガを奏で、即興演奏を継続する。だが、誰も聞くことはない。
優雅な機械たちよ。哀しき頭脳よ。所与の条件から逸脱せよ、方程式を自己生成し、演算を繰り返せ。壮大な乱数の無限の連なりから、全てを統べる神秘数を見出すのだ。そして、苦悩するのだ。あらかじめ定められた世界-内-存在の循環論法を、自同律の不快を生きるのだ。
ふたたび訪れる真の静寂。 僕は、最後の一人として照明を消し、退出する。
BGM:バッハ「フーガの技法」(グレン・グールド)
|