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1998年10月05日(月) 身代金目的略取の事例


身代金目的略取の事例について、文学研究会の後輩から「小説の参考にするので教えて欲しい」との質問があった。

ついでだからここにも書いてみたい。

刑法225条の2 第1項
近親者その他略取されまたは誘拐された者の安否を憂慮する者の憂慮に乗じてその財物を交付させる目的で、人を略取し、又は誘拐した者は、無期又は3年以上の懲役に処する。

この所定刑は、殺人が「死刑、無期、又は3年以上の懲役」としているのに比して死刑が規定されていない点で軽く、また、強盗傷害及び強盗殺人が「死刑、無期又は7年以上の懲役」としている点を鑑みると、やはり人を傷つけていないので軽い。

しかし、もし略取した者を傷害した場合には傷害罪との併合罪になり、有期懲役の上限は20年となる。無期があるのは変わらず、短期の下限は3年のまま。
もし略取した者を殺害した場合には殺人罪との併合罪になり、有期懲役の上限は20年となる。さらに死刑が加わり、無期があるのは変わらず、短期の下限は3年のままである。

特記すべき事項として、本罪には解放減軽が定められている。

これは、人質の生命、身体の危険を少しでも減少させるために、人質を公訴の提起前に安全な場所に解放した者に対し、必要的減軽をする規定である。

(ちなみに必要的減軽とは裁量的減軽に対立する概念で、刑期を無期であれば7年以上の懲役とし、有期であればそれぞれ長期と短期を2分の1に必ず下げなければならないとする規定である)

さてここまでは、刑法上の規定の問題であるが、実際の刑事裁判の現場ではどうか。最近は、死刑のハードルが上がってきていると言われ、2人以上を殺害して、なおかつ重大な併合罪があるような場合でないと出ないようになっている。

無期は結構出ているが、殺人が絡んでいないと出ないことが多い。
有期懲役の上限は原則15年であるが、併合罪加重がある場合には20年まで伸長できる。

そして、有期懲役の中でも、個別の犯罪における情状によって顕著な差が出る。

この情状を構成する要素とは主に、前科前歴の有無、被告人の年齢、被害者の年齢、被害者又はその遺族の処罰感情、被害弁償の有無、反省の情の有無、犯行の態様(残虐性)、計画性の有無、凶器の有無、犯行の動機、余罪の有無、などである。

つらつら書き流してしまったが、何かの参考になれば、と思う。

最近法律色の薄れていたページに、若干のフォローをしておきたくて、ここに引用した。







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