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1997年05月23日(金) 刑務所見学


朝から刑務所見学のプログラムがあり、昼ごろ川越にある少年刑務所に向かう。少年刑務所と言っても、26歳未満の者が収容されており、少年と言うより青年層が多い。クラスのある友人は「受刑者の様子をみてかなり気分がブルーになった」と言っていた。確かに、そこには二義を許さない苛酷な現実の一面があった。そしてそういった現実の目には見えない部分で、社会の多数の人々は日常生活というこの上ない幸福を享受しているのだ。僕自身は予想していたよりも厳格な規則が忠実に守られているという感想を抱いたけれども、雑居房の恐るべき狭さときちんと四辺をあわせて折り畳まれた布団を見て何かやるせない一方で、テレビが置いてあり、本類がいくらか置いてあることにほんの少しばかり慰められた。

刑事の裁判官はあのような場所に人を送る判決を下しているのだ、という今更当たり前とも思えることに改めて驚く。

その夜、カミュの「ペスト」を読み直していたら、主要な登場人物の一人であるタルーが、自分の父親が裁判官であって、父親が死刑の判決を下すのを目の当たりにして今まで抱いていた父親への尊敬が吹き飛んでしまう回想シーンがあった。何か、非常につまらない符合がとてつもなく重要に思えてくる瞬間がある。今まで「ペスト」は二三回通して読んだが、こんなシーンがあるなんて全く気づかなかった。僕は思わず目をつむって考え込んでしまった。この世は裁判に満ちている。







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