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1997年04月21日(月) 休日はアンリ・ベールとともに

休日は古い小説を書き直したり、書き足したり、友人たちと運動をしたり、ということであっと言う間に過ぎ去ってしまった。

スタンダールのパルムの僧院を引っぱり出して読み返す。この小説もいったい何度読んだことだろう。読む度に自分の中に規範化された スタンダールを見いだして動揺したりするのもいつものことだ。スタンダールの独特の倫理観については、ベーリズムという呼称まで付されているくらいで、今なお彼の倫理観恋愛観が色褪せていないことを示している。 ちなみにベーリズムとはスタンダールの本名のアンリ・ベールからとられたもので、これに共感する人々のことをベーリストという。

もちろん彼の恋愛観がもっとも顕著な形で示されたのは、かの有名な「恋愛論」であり、恋愛の結晶化作用(cristallisation)はまさに理論化された恋愛の形であると思われる。 しかし、それよりなにより、理論でない、生の物語の形で示された彼自身の恋愛の理想型が、先に挙げた「パルムの僧院」にはっきりと打ち出されている。いささか純粋すぎるほどではないかと思われるほどの純粋さをもって、登場人物であるファブリスは古典的にも政敵の愛娘を愛し、牢獄の中にあってさえ、彼は幸福であると思うに至るのである。 このストイシズムはスタンダールの小説の主人公の造形に共通のもので、「赤と黒」におけるジュリアン・ソレルも最後に理解しがたいほどの潔癖さを持って、自らの裁判の控訴を拒否し、死刑台に登るのである。

seinを描く作家とsollenを描く作家という対立項で見れば彼は明らかにsollenを前提とした描写を行っている作家であるといえる。その点で好きか嫌いかがはっきり分かれるだろう。最初に読むなら、「パルム」のほうをおすすめしたい。最初のワーテルローの戦いのシーンが少し長く退屈に感じられるかもしれないけれど、 それを乗り切って読むだけの価値はある小説だと思う。むしろ娯楽小説として読むのが正しい。







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