外に出ると雨のニオイはしなかったはずなのに、雨が降っていた。 車で行く事も考えては見たが、やはり歩く事にして傘を取りに戻る。 雨は、乾ききったアスファルトも、異様な程鮮やかに咲いている花も 郵便ポストも平等に黒く湿らせている。 僕の傘と同じような赤い傘をさした女が、まるで世界中の不幸を 背負わされた様な顔でバスを待っている。 もしかしたら、本当に世界中の不幸を一手に引き受けたのかも知れない。 少し先の公園で、この雨にも関わらず犬の散歩をしている女とすれ違った。 犬はレインコートを着ていた。 僕の持っているモノよりもそれは高価そうに見える。 実際高価なのだろう。 彼は(あるいは彼女は)自分が犬である事に全く気が付いていないようだった。 飼い主もそれには全く気が付いていないように見えた。 地下鉄の駅の前を過ぎる時、地下から大勢の人が次々に地上へと上がって来た。 みんな不服そうな顔で空を見上げている。 彼ら全員に色を付けて下さいと言われたら、僕は即座に群青色を選ぶ。 澄み切った空には届かず、全て覆う闇にはなりきれない。 彼らは僕に勝手な色を付けられようと、それぞれに幸せなのだ。 そして、僕の色は?と問えば、きみに与える色などこの世の何処を探しても無い。 と言われるのは理解りきっている。 多くの事は考えすぎない方が幸せであると僕も思う。 コンビニエンスストアで、ビールと冷凍のフライドポテト、他にいくつかの つまみを買って、彼女と過ごすこれからの時間の事を思うと、 全ての事を許しても良い気がした。 雨や郵便ポストや不幸を背負った女や犬や飼い主や群青色の群集や 色を与えられない僕や、、、そんな全てだ。
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