DiaryINDEX｜past｜will
| 2007年09月06日(木) | 岩波新書『戦艦大和』読了 |
本書は「ぎりぎり間に合った」（あとがきより）戦艦大和の生き残りたちからの証言によって描かれたノンフィクション。
いや戦後６２年。敗戦当時１８歳だった少年兵もいまや８０歳。
太平洋戦争の戦場を記録したオーラルヒストリーの書としてはこれが最後のものとなるだろう。
3332名の乗員を乗せ、沖縄へ出向した大和はわずか2時間の航空攻撃の末に伊藤整一司令以下3000名以上とともに海の藻屑と消えた。生還率１０％未満。そして平成１９年現在の生存者はわずか二十数人。筆者はそのほとんどといっていい２３人と直接、もしくは手紙などの間接手段で連絡をとり、大和の最後を浮き彫りに成功した。
当時の常識では�‖舅造両莪�は陸揚げ・陸戦隊員に配属��大和は「最後の機会」まで温存するため朝鮮に退避する�Ｂ舅造浪�縄戦に投入される。最も愚策と考えられていた��が採用され、それは一般に言われる「神がかり」神参謀のごり押しだけではなく、「沖縄戦には航空攻撃しかないのか」という天皇からの無言のプレッシャーに幕僚たちが耐えかねたということでもあり、また敗戦後も大和が残っていたら建造者の責任が問われることを恐れての年度末の道路工事に似た計画でもあった。そのことの無意味さについて青年士官の間で論争の末殴りあいに発展したことは吉田満『戦艦大和の最後』に詳しい。
だが、あるものは語る。大和が長門のように戦利艦になることは耐えがたかったと。
そしてあるものは語る。戦友の死骸を処理し血がこびりついたその手で空襲の合間を縫って握り飯をつかんでほうばったことを。
そしてあるものは語る。連合艦隊最強最大の戦艦へ配属された誇りを。
そしてあるものは語る。自分たちの出撃が「特攻」とみなされない悔しさを。（数年前ようやく「準特攻」と認められた）
そしてあるものは語る。どうしてもっと早く戦争を終わらせられなかったのか、戦争をおこすものは自ら戦場には行かない、と。
そして全員が語る。「死に損ねた」肩身の狭さとつらさを。
そこには戦争における全ての要素が現れている。おろかな司令部への怒り。戦士としての誇り。戦場の中で磨耗していく人間性。敗者としての屈辱。
澤地久江は『滄海よ眠れ』でミッドウェー海戦の戦死者の遺族からの聞き取りを行った。しかし、そこからは第一章「友永大尉の最後」で語りつくされていた「戦争の勝者・敗者というのは国家のレベルの話であり、戦場の兵士にとっては「戦死」という敗北しかない」というテーマを同工異曲で語り続けているだけであり、文庫本にして前４巻にわたる『、『滄海よ』からはわずか２２０pの本書のような戦争のさまざまな横顔は見えてこない。その点、本書は『滄海よ』を超えているといえる。
そして巻末では吉田『戦艦大和』で描かれた「救命艇にすがりつく水兵の手首を切り落とした」光景は少なくとも大和の最後のときには見たものも聞いたものもいないこと。吉田自身も「自作はフィクション」と認めていたようだ（すると前述の殴り合いも怪しくなるが）
せめて士官候補生数十名が「日本海軍の未来のために」下艦させられたことと、大和の建造によって培われた技術が戦後日本を「造船大国」にし、復興の大きな足がかりになったことが彼らにとって慰めといえる。
是非一読。
