おぼしきこと言はぬは腹ふくるるわざ
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| 2006年10月21日(土) |
佐々木譲『天下城』読了 |
久々の読書日記・そして久々の一気読み 著者・佐々木譲はホンダのエンジニア出身の小説家。 初期は『零戦飛行指令』や『エトロフ発緊急電』等のハードボイルド小説や冒険小説が中心だったが、その中にもいかにも技術者出身らしい視点や、背景となる設計図を綿密に作った上で作品を設計していく正にエンジニアらしい作風などに前身が感じられた。 ところが最近になってその技術者の血は作品のテーマそのものに向い始めた。『くろふね』『榎本武揚』など幕末から明治に技術を伝承した技術者達を主人公にし始めた。 そして本作では初めて舞台を戦国時代にうつし、主人公を築城技術者である架空の石積み職人とし、山城から平城へ移り変わる築城史をテーマに描いているのである。 主人公が安土城設計に関わる都合上、織田信長・丹羽長秀・羽柴秀吉が登場するのは当然にしても、武田信玄に始まって松長弾正・朝倉義景・三好長慶などの戦国大名総出演、はてはフランシスコザビエルや鳥居強右衛門まで出てくるのは「戦国時代」という玩具箱をもらってはしゃいでいる子供のようで微笑ましい、というか少し遣りすぎの感あり。 だが長篠の合戦を単なる鉄砲の騎馬武者への勝利、として捉えずに、小田・徳川の野戦陣地を、いわば攻城戦として戦わねばならないところを通常の合戦と思って力押しにした武田勝頼の情勢判断の誤りにおいているのは興味深い。 これは憶測だが、著者が戦国時代にもう一作書くならば、ポルトガル人の種子島漂着の折、城主に命じられ鉄砲作りの秘術を学ぶために自分の娘をポルトガル人に差し出したという伝説の鍛冶師が脳裏にあるのではないだろうか。なんにせよ佐々木譲。谷甲州と並んで数少ないエンジニア出身の作家にしかできない仕事をしてもらいたい。
べっきぃ
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