組織にいる以上、破ってはならない、守らなければならない規則というものがある。
規則は守らなければならない。絶対に。
俺が働いている病院にも、当然この規則がある。
今日の日記は、規則の一つについてのお話。
俺らの病院の規則の一つに『患者の髪は独断で切ってはならない』という規則がある。
例えどんなに髪が伸びていようと、それが落武者よろしくだったとしても、絶対に家族の了解なしでは切ってはならない。
以前、あるスタッフがこの規則を破り、病院全体に最注意が入ったばかりだ。
それを奴は知ってるはずなのに。
知っているはずだったのに!!
今朝、出勤すると・・・・仮にSとしておこう。
Sという患者さんの前髪がキレイに揃えられていた。
このSという患者の家族は、入院以来全く面会に来ず、入院費の支払いも滞っており、そして連絡も全く取れない状態であった。
そのSさんの髪がキレイに整髪されている。
髪を切るには家族の了解がいる。
そして何より、床屋代が必要だ。
気になった俺は同僚スタッフに聞いた。
俺 『Sさんの前髪切られてんだけど、家族来たの?』
ス 『えー?来てないでしょー。』
俺 『でも切られてるみたいよ。』
ス 『おっかしいわね〜。Sさんには手持ちのお金も無いはずなのに。』
家族は来ていず、そしてお金もない。
でも現に髪は切られている。
となると行き着くところは
『誰かが勝手に切りやがったな。』
病棟内では以前勝手に髪を切って問題になった¨Nさん¨ではないか?という話になった。
でもそれは考えにくい。
総看護長から厳重な注意が入り、そしてリスク用紙が全病棟に行き渡ったのだ。
一回叱られてるのに、更に問題になるような事はしないだろう。
もし仮にNさんがやったとしたのなら、間違いなくクビ。
そんなリスクを背負ってまで髪を切るなんて事は、100%考えられない。
『じゃあ誰が?』
答えは昼の休憩中に分かった。
そう、俺の後輩、シーサーだったのだ。
俺 『お前、やってはいけない、って知ってたよな。』
シ 『・・・・・・・はい。』
俺 『じゃあ何でやったんだ!?』
シ 『髪が伸びすぎでしょう!!Sさんは!!』
俺 『家族の了解なしで勝手に切るんじゃねえよ!!!!』
シ 『・・・・・・・・。』
俺 『おめえもNさんと同じ事をしてんだよ。』
シ 『違いますよ。』
『端から見れば同じだ馬鹿野郎!!』
シ 『・・・・・・・・・家族の了解が得られないと髪が切れないなんて・・・・・。』
彼は苦虫を潰したような顔で言った。
俺はこの時、ふいに懐かしい感じを覚えた。
若かった頃、同じように悩んだ事がある。
規則に縛られる俺。
それを打破しようとあがいた自分。
でも結局打破できず、規則に順応、知らぬ間に淘汰された今の俺。
俺の前でうなだれるシーサーに、俺は昔の俺を映し出す。
俺 『お前は・・・・・・・・・・・・・・まだ若いんだな。』
知らぬ間に俺は『大人』になっていたのか?
これが大人なのか?
俺は、昔の俺が最も嫌いだった、規則に縛られる大人になろうとしているのか。
まさかお前が昔の俺を映し出すとはな。
参ったよ、シーサー(苦笑)
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