今日は深夜入りのため、俺は半日勤務だった。
昼の12時まで働き、休憩に入った。
ボヘーッとパソコンの前に座り、ネットで遊ぼうとした瞬間
スタッフの声が響いた。
『詰まった!!Mさんが詰まった!!!』
Mという名前の患者が、食い物を喉に詰まらせた。
・・・・・・だがおかしい。
昼飯は10分前に食ってしまったはずだ。
口の中に残渣物があるわけもない。
強い糖尿病で
医者に『お菓子は摂取不可』の指示出てるから食ってるわけねーし・・・・・・。
今、奥さんが面会に来てるし・・・・・。
・・・・・・ん?奥さん?
そういえば前に何回か医者の指示を無視して食わせてたな・・・・・。
・・・・・・・やりやがったな。
部屋に行くと、Mさんは詰まらせていた。
だが、様子を見てきた看護婦さんが
『声が出てるから、もう大丈夫だと思うんだけど・・・・・。』
と言う。
奥さんが羊かんを食わせて、詰まらせたらしい。
・・・・・・・もう大丈夫・・・・・・・
この言葉にやられた。
全然だった。
この言葉に俺は反応して対応が遅れてしまった!!
『掃除機持ってきますか〜?』
『もう大丈夫』の言葉に俺は安心してしまい、何とも間の抜けた言い方で言った。
『うん、持ってきて。』
俺が掃除機を持っていくと
Mさんの顔に酸素欠乏を証明するチアノーゼが出やがった。
みるみるうちにMは死人の顔色になっていく!!
ここでようやく俺は現実に還る!!
(やべーよ!!大丈夫なんかじゃねえよ、これ!!) (死ぬぞ!!この人死んでしまう!!どうするんだ!!どうするんだ!!) (てかこの奥さん、何で食わせてんだよ!?医者に止められてるのに!!) (しかも羊かんかよ!?羊かんで詰まるってどんだけ大きいの食わせたの!?)
女性看護が掃除機の管を挿管する!!
が、うまく口が開かない。
俺が両手でこじあけ、強引に挿管する!!
ゴー
『出てきた!!』
『でかっ!!』
出てきたのは、直径5cmほどの羊かんの欠片だった。
出たと同時にMの顔色に赤みが戻る。
『げっげっげっ』
これで安心だ・・・・・・・・・・。
Mさんは一命を取り止めた。
奥さんは医者に叱られたのか、どうなったかは分からない。
命を預かっている現場で、緊急があったら気を張り詰めなければいけないのに
俺はあろう事か気を抜いてしまった、抜きすぎた。
俺に介護は、病院は合ってないのかも知れない。
今まで培ってきた自信は、音を立てて崩れてしまった。
もう・・・・・・・・嫌だ。
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