委員長の日記
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2003年06月16日(月) 『月光の夏』考

今から約10年前、『月光の夏』という映画の自主上映会を企画したことがある。

ご存知の方もあるかと思うが、戦争中に特攻隊に入隊した、芸大の学生二人が、明日が出撃の日と決まり、死ぬ前に、もう一度だけグランドピアノが弾きたい・・と、鹿児島の知覧の基地から、ピアノを探して、訪ね歩き、ある小学校で、グランドピアノに出会って、最後の思い出に・・と『月光ソナタ』を演奏し、翌日出撃していったという実話を基に作られた映画である。

戦後何十年もたって、体育館の隅に放置され、ぼろぼろになったピアノが廃棄処分になると聞いた当時の女性教師が、ぜひそのピアノを譲り受けたいと申し出て、そのエピソードが明らかになり、ラジオ番組やテレビでも取り上げられ、話題になった。

10年前。。まだ、日本は今ほどきな臭くはなかったが、戦後半世紀が過ぎ、人々の記憶から戦争が消えてしまうことを恐れ、鑑賞を通じて、子どもたちにさまざまなことを伝えたいと活動をしていた私たちは、せっかく取り上げるのであれば、『自分たちの思いがきちんと伝わる作品を選ぼう!』と考えて、この作品に取り組んだ。

当日は、2回上映したのだが、実際に特攻兵だったというお年寄りなど、沢山の地域の方々や子どもたちが参加してくれて、大成功を収めた。

とりわけ、私たち実行委員を感動させたのは、会場の担当者の方が、1回目の上映のあと『舞台にピアノを出しましょう!』と、使用料も払っていないのに、好意で、グランドピアノを置いてくださったことだった。

その後、私たちは、数年に1度、映画会を企画し、そのたびに、『ベトナムのダーちゃん』『月桃の花』などの戦争をテーマにした作品に取り組んできた。

そして、先日の委員会でのこと、
次年度に向けて、私たちの会はこれからどのように活動を展開させていくべきなのか、そのためには、それぞれの委員が、この会の活動を通じて何を達成したいのか・・という話になり、
一人の委員さんが、『私は、やはり平和について考えて行きたい・・』と発言したのを受け、他の委員さんが『私たちの会は、これまで、戦争にこだわって映画の上映会を企画してきたが、最初に企画した“月光の夏”から10年の歳月が流れ、見ていない人も沢山いることなので、もう一度あの作品を企画してはどうか?』という意見が出た。

その場に居合わせた委員の中で、『月光の夏』を企画したときに会員として活動していたのは数人で、半分以上の委員が、見ていなかった。

そんな中で『ぜひ、もう一度あの作品を上映しましょう!』という声が大きくなったのだが。

私には、一つの危惧があった・・・
確かに『月光の夏』は、とても優れた作品だと思うし、製作者の意図も反戦・平和への祈りを込めたものだと思うのだ。
しかし、内容としては、主に戦後生き残った人たちの心理描写に重点が置かれていて、『ベトナムのダーちゃん』や『月桃の花』のような戦争の悲惨さを訴えるような映像は少ない。

それはそれでよいのだが、私がどうしても引っかかるのが、主人公の一人である、特攻兵が小学生たちに残したせりふの中に『僕たちは、君たちが幸せになるために、逝くんだよ』という一節があることだ。
もちろん、映画の全編を、きちんとした視点で見れば、死んでいくことへの矛盾に悩む特攻兵たちの苦悩や、生き残ってしまった元特攻兵の苦悩などが描かれている。
しかし、まかり間違えば、この作品を上映することが、かえって戦争を美化し、肯定したがる人たちに悪用されかねないと思うのだ。

委員会では、そんな私の思いも伝え、だから、上映会をしないというのではなく、自分たちがどのような意図で取り組み、子どもたちに何を伝えたいのかという意思表示を明確にした上で、企画していかなければいけないのではないか・・・と話したのだが。。。

こんなことを心配しなければならなくなった、今の社会情勢に、無所に腹が立って仕方がなかった。。。


委員長