- 2008年07月22日(火) さあブリュンヒルデ 歌おう、笑おう、愛しあおう、諍おう、殺しあおう、稼ごう、放蕩しよう。 そういって誘惑したのは世界という魔物。 さてそれに私はどう答えたか。 歌や愛、殺害の楽しみは他に譲ろう。 わたしはただ見よう、見て理解しよう、貪欲なこの目を見よ。 この黒と白の球体はわたしの口、満ちることのない胃袋。 世界を咀嚼し噛み砕き飲みほしてなお飽き足らぬ、 さながら餓えを宿痾とする哀れな百億もの餓鬼の群れ。 ギガンテスの胃袋、ヒュドラの口、アトランティスを飲んだ海さえ、 わたしのこの目ほど渇き餓えてはいなかった。 この目は汚穢のさいたるところまで求め飲み込み食らい齧り啜り、 天の高みに至るまで飲みつくすさんと求めている。 私の哀れな食事によって、世界は薄くなるだろう。 羽毛ひとすじ盗みもせず痛めもせぬこの目の餓えだが、 私が飲み、私が食らうことによって世界は薄くなるだろう。 ちっぽけになり、あさはかになり、愚かにさえなるかもしれぬ。 だが世界よ、汝が私を誘い、私はすでに是非なく生まれ落ちた。 されば行こう。世界を滅ぼす旅に。世界を飲みほす旅に。 いよよ勝る餓えにたけり狂う旅に。 なんとなれば世界よ、汝が私を誘ったがゆえに。 そして私がすでによんどころなく生まれ落ちたがゆえに。 -
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