終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2008年04月20日(日)


 反逆の皇子は玉座の間に立ち入った。かつて、以前、ずっと昔、かれがまだ無鬚のころ、剣を握れるほど強い手でもなかったころ、最初にひとを殺すずっとまえに、そこに立ち入りを許されたときに覚えた感慨ほどには広くも天井高くも恐るべき威圧もないように思われた。王はすでに老いて、臣下にすら見捨てられて玉座にあり、いまは死を待っているであろう。
 皇子は歩みを進めた。まったくの暗がりではあったが、わずかに丸天井からは月の光が細く落ちている。そのかすかな光をたよりに皇子は進み、そして立ち止まった。玉座はほどなく闇に現れ、そこに座す王をおぼろに浮かび上がらせた。ひとというより、疲れ果てた太古の幻とさえ思われた。
「いまやわたしは勝った。父上、御身のすべての策略は虚しかった。毒、暗殺者、一群の兵団、獅子の牙までも御身は差し向けられたが」
 皇子の言葉は朗々として丸天井に響き、こだまが響きを返してきた。
「…虚しい」
 皇子はわずかに眉を寄せ、あたりをぐるりと見渡したが、言葉を続けた。長らく、そうだ長らく、辺境よりの長い道のりを、戦いに継ぐ戦いの日々を通じて、いつか我が父に言わんとして何度となく胸のうちに推敲を重ねて
いた言葉であった。台詞を読む俳優のごとく皇子は続けた。
「父上、御身の所業は悪にすぎ、貪婪に過ぎた。民は御身をもはや唾棄すべき虫けらとみなし、東の果てより西の果てにいたるまで口という口が呪詛している。そしてわたしはといえば、かれらの望みの的であり、熱狂と歓呼をもっていずれの祈りの前にも祝福と平安を捧げられている。それもすべては、わたしが彼らを愛し、慈しみ、正しい方へと導かんと願うゆえ」
「…願うゆえ」
 再びこだまが響いた。皇子は不安にあたりを見渡したが、言葉は最後まで言われることを求め、皇子に強制さえしたため、つづけざるをえなかった。
「わたしはここまで一人できた。誰もわたしを妨げはしなかった。王位はすでにわたしのもとにある。あとは御身に玉座を下りていただくのみだ」
「…下りて」
 皇子はもう先を言わなかった。のろのろと、玉座の上の王は身を起こして


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