終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2007年10月15日(月)

 途中からはもう、狂気に駆られていた。細いこよりが炎に灼かれながらのたくるように、妬心と熱情と憐れみは西園寺を焦がし、ほとんど息の根の絶えるほどにのたうたせた。触れるつど官能の吐息がこぼされ、貫いた瞬間に甘く熱く引き絞られ、どんなにひどくしてさえかえって悦びに震えるかに見えたからだに、そうしたことを仕込んだ手を嫌というほどに思わせられた。傷つけたいのか労りたいのか。惚れているのか憎んでいるのか。それらすべてが打ち消しあいながらどれひとつ消えず弱まらずほとんど際限もなくふくれあがってぶつかりあい、にも関わらずかき抱くこの手は一対しかない。遊び慣れした旦那でいられるわけもなかった。
 夜明けに至って、ほとんど呆然とし、泥のような疲労のなかで、西園寺は寝乱れた布団の上に座り込んでいた。祐介は精も根も尽き果てたように髪もほどけてうつぶせに横たわり、薄暗がりの中に痩せた裸体を晒している。その背に布団をかけてやろうと、足元にわだかまっていた掛け布団を掴んでのろのろと持ち上げ、は、と西園寺は息を止めた。薄い背には幾つも傷がある。そのうちのいくつかはまだ新しいとみえた。さらに目をこらせば、水のようなうす青い夜明けの光のなかで、祐介の手に足に残る痣が見えた。
「……」
 胸を突いた感情は西園寺の息を詰まらせ喉にせりあがり、絶えかねてうつむけば細い背に温い涙滴が散った。夜を徹してかれを苦しめたものはそのどれひとつとして解かれもはなたれもせず、だがこれからせねばならぬことがこのときわかった。西園寺はおさえようもなく低い嗚咽を漏らしながら祐介の項に顔をおしつけた。
「…だん、な?」
 かすかな身じろぎとともに祐介が身を起こす気配があった。それでも顔を上げることはできなかった。布団の上についた手に手が重ねられた。
「アタシはもう、死んでも、いいくれェでさ…」
 西園寺は声を上げて泣いた。


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