- 2007年07月25日(水) 厚みのある体を背後から抱きしめる。うなじの辺りに顔をこすりつけ、短く刈られた浅い襟足に鼻をうずめて息を吸う。汗のにおいに混じって、寒い冬の朝を思わせるそれが鼻腔に満ちた。この男のにおいだと、かれはいつものように思う。薄い体臭を強い固い真っ黒な髪の奥から吸い込むときだけ、かれは確信できるのだ。この男のこんなにおいを知っているのは俺だけだ、だからこれは俺だけのものなのだと。 もっともかれは盗みとったようなそうした満足が、後ろ暗さの裏返しにすぎないことを知っている。そもそもこうした「関係」(かれはこの言葉が嫌いだ、憎んでさえいるといっていい)が根本的には男の同意を欠いており、いまこうしてことを終えて背後から抱きしめている間でさえ、のぞきこめば男の眼差しは無表情に壁に投げられている。そこには諦めに似た辛抱強さこそあれ、愛情や余韻といったものは少しも見あたらない。 かれは目を閉じる。それはまったく比喩的にもその通りだ。だがあえて苦痛を求める心はかれにはなかった。もっともくっきりとした太い眉、切れ長の双眸、やや厚みのある唇といった男の横顔が見えなくなることはいささか残念ではあったのだが。かれは腕の中の体を感じることだけに集中する。かれ自身の少年めいた細さを残した体つきとはほど遠い、大人の男の躯だ。厚みのある胸板、がっしりした腕と足、均整のとれた腰と余分な肉などないが絞られすぎてもいない腹。それから。 かれは唇を舐めて、両手を男の上に這わせ始めた。終わったものと思っていたのか、意表をつかれたように男がわずかに身じろぎする気配が伝わってきた。肩と胸を強く撫で、脇腹を下りて、緩く足を投げ出す腿を伝う。手指の下で固い筋肉がわずかに収縮したのに笑って、男の陰茎をつかんだ。萎えている。は、と息を吹きかけるように笑って、上下に扱き始めた。とたんに身じろぎの気配は腕の中に鮮やかで、かれは男の肩胛骨の上のあたりに軽く歯を立ててねっとりと舐め上げた。もう一度、男を抱こうとかれは思った。今度は犬のように這わせて後ろから犯そうか、それとも。 「ねえ」 かれは男の耳に囁いた。 「甥に抱かれるって、どんな気分がするものなの?」 かえってきたのは答えにならないようなかすかなうなりだった。そこでかれは、男自身に足を広げさせて、顔を見ながら突く方がいいと結論づけた。 あられもなく。 -
|
|