- 2006年07月18日(火) 兄を抱き寄せる。その行為にはいつも、胸を引き裂くような孤独が伴う。ククールは、それがなぜだかわかっていない。わかったとしてもこの孤独は失せないだろうと思えばそれもどうでもいいことだったのだが。 「暑苦しい。よせ」 否定の言辞が眠気をおびて告げられる。むろんそれに意味などない。マルチェロがベッドの中でククールに逆らったことなどないからだ。 「……時計が、さ」 ククールは兄の背を抱き込んで、ひっそりとささやいた。 「あんたがねじを巻くから、止まらないんだ」 「なんだと?」 それは確かにマルチェロの几帳面な日課の一つであって、柱時計は彼がこの館に住むようになって以降、遅れたことも止まったこともない。 「止まっちまえばいいのに」 「それでは時計の用が足りぬだろうが」 ククールはもう、それより言いつのらずにマルチェロのうなじに顔を埋めた。突き放されることのないというだけの許容であっても、それがどんなに貴重に感じられているか、おそらくマルチェロは知らないだろう。 時間が止まって、とククールは考える。時間が止まってしまって、もうけっして明日が来なければいい。太陽が昇らなければいい。二人して目覚めなければいい。もうこれよりほかなにもいりはしないのだから。 ククールは何も言わなかった。夜半に時計の針が進んでゆく音は揺るぎなく小刻みに続いていて、いかなる望みもそれを妨げることはないからだ。ククールはなにも言わずに兄の背を抱きしめた。 -
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