- 2006年07月07日(金) 音がする。 どこか遠くで、さみしくバイオリンが鳴っている。 世界のはるかな彼方で。 あなたは耳を澄ましている。部屋の真ん中には花瓶にいけた青白い薔薇が一本あって、あなたの座るソファのあたりまでその香りを漂わせている。花々の中の花々のようなレースをあしらったドレスのすそを引き寄せて、あなたはけだるく青いビロウドの背もたれにつむりを預けた。絹よりもさらに絹めいて波打つゆたかな髪はあなたの背後に曳かれて重く垂れた。 「聞こえまして」 向かいに座る黒髪の少女は黒百合めいて頭をかしげた。顎のあたりで切りそろえられたまっすぐな髪はゆらりとゆらめいた。少しの間をおいて少女はあなたを見た。あなたはふと、この少女はいつからここにいたのだろうと不思議に思った。少女は答えた。 あなたはふと顔を上げた。花咲く高原の夏の上を、なにか明るいものが動いていったように思ったからだ。それは見るうちにゆらゆらと揺れて、麦わら帽子となった。あなたはそのつばひろの金色の帽子の下に、それよりもっと明るい、やさしい美しいひとを見出して、立ち上がった。 だが恋人はつっと唇に手をあてたので、あなたは口から出しかけた挨拶の言葉を押しとどめた。恋人は何かを探すように辺りを見回して、それからまたあなたを見た。あなたはそれがどういう意味なのかいささかはかりかね、だがともかくも相手を真似てあたりに気を配った。 見えるのは花々で、聞こえるのは葉ずれの音。だがあなたはやがて、その遠くから聞こえるものに気づいた。あなたは少しうっとりとして、それから恋人に向き直った。 「聞こえますか」 -
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