- 2005年10月31日(月) 軌道を外れることのない一本の鋼の矢が その魂に抱いているほどの悲しみがある。 ここに、この嵐のような楽の音のうちに。 『トッカータとフーガ ニ短調』(JSバッハ) 青白い光に満ちた部屋のなかで、ジンニーアはふと笑った。 「そうではない。そうではない。そんなことは必要ない。 何一つ、そうだ、なにひとつ、必要などではなかったのだよ。 それくらいのことは、おまえはわかっていると思ったが」 そんなにも否定されて、私は腹を立てるよりむしろ不思議に思った。彼女は何につけ頭ごなしに否定するという習慣を持たないと知っていたからだ。では、この完全な全的な一気の否定は、腹立ちや無神経よりもむしろ驚きによるものであろうと思われた。 「殺す必要も抱く必要もないのだ。声を上げて笑うことも怒ることもない。 そうしたすべては過剰にすぎぬ。ただの酔いどれのすることだ。 そんなものではないのだよ。思いは、人の思いというものはもっと深い。 昼に見るよりもずっと深い。さあ、思うてごらん。 大海をのぞきこんでいると思っていた男が、ふと、 自分が見ているのは空だと気づくようなものだ。 それは深い。深く、美しく、明るい」 ジンニーアは両手を広げた。それは一見すればただ少女の両手にすぎなかったが、数多の銀河と星雲がその指のあいだでゆっくりと回転しているのだということを私はもう知っていた。 「さあ、見てごらん。 このすべての銀河はただ定められた軌道の上を廻るだけだ。 廻ってゆくだけだ。 人のように踊ったり歌ったり、いわゆる生活などというものを 経験することもない。廻る。それだけだ。 しかもただそれだけのことに、これらはすべてを言い現しているのだ。 なぜならそのことばを知るものがいるのだから。 そして言い尽くしたときには一つひとつ静かに燃え尽きるのだよ。 そうだ、ヴィオロンの弦からはじき出された音色のように」 -
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