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Montgomery Book

第4章 (3) その一言
 忘れられない一言がある。多彩な登場人物たちが発するセリフのなかでも、彼らの持ち味を凝縮した一言というものが。そんな忘れがたく端的な名言を、それを発した人物とともに紹介してみよう。読む者を笑いに誘い、納得させ、ときには震えあがらせる一言。折に触れて浮かびあがってくる夢の人々と読者をつなぐもの、熱意のこもった言葉の、ほんの一端を。


*チリタック

 ジョサイア・チリタックは、ある晩、銀の森農場へふらりと訪れ、ジュディばあやの良き相棒として農場の仕事を手伝うようになった風来坊。ジュディにはツリタックと呼ばれている。ユーモラスでバイオリンの得意な彼は、パットたち家族に愛され、皆が彼なくしては銀の森らしくないとすら思うほどになる。このチリタックの口癖は、哲学パロディ風。

 「象徴的な言い方をすればね」
 (/「パットお嬢さん」)


*ミス・コーネリア・ブライアント

 「男の言いそうなことじゃありませんか?」
 (/「アンの夢の家」)

 この一言、彼女を一度知った人なら忘れることはないだろう。これだけでミス・コーネリアがどんな人物か、わかろうというもの。そう、彼女は生粋の女権論者である。しかし、それでいながら「温情」(コーデリア)を併せ持つから、彼女の人生は摩訶不思議なのである。"ミス・コーネリアは人生の悲劇の角をたえず覗くという喜劇を演じていた。"(/「アンの夢の家」)といわれるように。


*スーザン・ベイカー

 「パーティをひらく以上はちゃんとしたパーティをするんです」
 (/「炉辺荘のアン」)

 スーザンは大人数を抱えるアンとギルバートの家庭を影に日向に支える、住み込みのお手伝いさん。「炉辺荘のアン」では育ちざかりの子どもたちを養う雌鳥のように、いつでも、どんなときでも、おいしいものをどっさり作ってくれる。しつけにはきびしいが、お気に入りのシャーリー(アンの三男)には甘い。メンツを重んじる彼女は、この家を完璧な風評のもとに保つという熱意の旗を掲げている。アンがレドモンドでの娘時代に下宿していた柳風荘のお手伝いさん、レベッカ・デューとも知り合いになり、意外にうまが合っているのがおかしい。


*小さなエリザベス(エリザベス・グレイソン)

 「先生が何かおっしゃるとき、すみれの匂いがするわ」
 (/「アンの幸福」)

 8歳の女の子にこれほどの賛辞を込められるとは、さすがアンである。エリザベスはアンの下宿、柳風荘のお隣に住む金髪の美少女。厳格な祖母に管理されており、身体が弱いことを補うように空想癖が強く、めったに会えない父と暮らす日を夢見ている。落ち込んだときには「リジー」という女の子になってしまうが、楽しいときは「ベティ」になる。小さなエリザベスのすべての希望は「明日」のイメージのなかにあるのである。


*従妹アーネスティン

 「わたしは早まって結婚し、ゆるゆると後悔するという例にならなければいいがと、それが心配なのですよ」
 (/「アンの幸福」)

 アーネスティン・ビューグル。アンの下宿先・柳風荘の老婦人の亡くなった主人の、遠い遠い(またまたまた従妹?)縁者で、なぜか訪ねてくることがある。心配性の度が過ぎて人を不安に陥れる。彼女にとって、すべてのものごとは心配の種にしかならない。この病はアンによって「ビューグル病」「ビューグル族」と命名された。「アンの幸福」には彼女と比肩すべき人物、粗探しが趣味の「猫のおばさん」も登場している。私がこのセリフをよく覚えているのは、これが数十年前、TVのクイズ番組に使われていたゆえんでもある。


*アンドルー・スチュワート

 一人娘のジェーンに言わせると 「海の響きのこもる声」を持っていた父親、アンドルー。もの書きらしく、ちょっと難しい名言やおどけた名セリフが多い。故郷のプリンス・エドワード島で独り暮らしており、妻のロビンとは10年来別居していて、ジェーンは父が生きていることすら知らなかった。

 「世の中で厄介をひきおこすのはすべて愚か者で、悪人じゃないのだ」
 (/「丘の家のジェーン」)


*ミス・ラベンダー

 「なんでもあなたの好きなものを食べましょうよ。なにか美味しい、消化のわるいものを考えてごらんなさいな」
 (/「アンの青春」)

 人里はなれた山彦荘で、女中のシャーロッタ四世と暮らす独身の中年女性、他の誰とも似ていない優雅で風変わりなミス・ラベンダーがアンに言うセリフ。ミス・ラベンダーはアンと知り合ったことをきっかけに、忘れられない25年前のロマンスをその手に取り戻す。17歳のアンが訪ねてくれると、自分も17歳だというふりができると喜ぶ。確かに、はしゃぎたい気分のときには、美味しくて消化のわるいものを食べるほうが、美味しくて身体に良いものより、さらにすばらしい。


*カロライン・プリースト

 「おやすみ。ナンシーとあたしはもちろん旧館のほうに寝てますよ。そのほかの人は家の墓場で寝ますけどね」
 (/「可愛いエミリー」)

 古い屋敷で魔女のような老婦人にぼそっと言われると、なかなか怖い。言われたのはエミリーである。カロラインは、エミリー・B・スターと一時婚約関係にあったディーン・プリーストの属するプリーストの一族。エミリーの属するマレー家とは公然の敵とまではいかないまでも、お互いに見下している。ここにマレー家から嫁いだナンシー大おばがいるために、幼いエミリーは同族のよしみで呼ばれ、短期間滞在させられたのだった。カロラインは変わり者のナンシー大おばと一緒に住んでいる80代の独身婦人で、魔女のように見えるらしい(エミリーの観察によれば)。


*大きい祖母

 「マリゴールド、したいことは何でもおやり──あとで鏡に映る自分の顔をまともに見られさえすればね」
 (/「マリゴールドの魔法」)

 レスリー一族の新入り、マリゴールドと、一族の長老である通称「大きい祖母」は、年が90以上も離れているし、性格もちがうにもかかわらず、どこか相通じるものがあるのだった。小さな姿をしている大きな祖母は、人をいじめるのが楽しみで、何でもお見通し。こうした言葉は、二人きりのときにしか言われない。有益なことこのうえないが、鏡を見るのが少し、怖くなる。しかし一生この基準を守っていけば、相当なことができるにちがいない。
参考文献
2002年01月20日(日)


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Keika