ささやかな独り言。...琴代 諒

 

 

怪しの夢 - 2010年07月19日(月)

※ 別創作ブログにも載せた、孤独結社様企画参加作品です ※




怪しの夢

 これは私の夢。幼い頃から繰り返し繰り返し見る夢の話。だけど今まで誰にも話す気になれなかった夢の話。
 その夢をこれからお話ししましょう。


壱 狐顔の女の夢
 私は高熱で唸っている。白い壁の、窓も入り口もないだだっ広い部屋の真ん中で、私は高熱を出して唸っている。喉が渇いて身体が熱くて、動く事も出来ずに唸っている。
 ふと気が付くと、床に臥せる私の顔を見知らぬ女が覗きこんでいる。色白で目のつり上がった、狐面のような顔の和服の女だ。私が目を開けたのに気が付くと、女は私の身体を支えて起こし、水を飲ませたり汗ばんだ身体を拭いたり、甲斐甲斐しく看病してくれる。そうして一息つくと、いつの間にかいなくなっている。
 また一眠りして目を開けると、今度は狐顔の女と、とても大きく筋肉質な男が私の顔を覗きこんでいる。男の顔は判らないのに、目が恐ろしかった事は判る。二人は満面の笑みで、私に粥を差し出す。女の差し出した粥は人形遊びで使うような小さな器、男の粥は子供の頭ほどもある大きな器。どちらにも箸をつけたが、男の粥は食べきれず、女の粥を何度も食べていると、女が男に向かって得意気に何かを言っている。どうやらどちらの粥が美味いのか、私の食べっぷりで競っていたようだ。
 しかし枕元で騒がれるのは勘弁して欲しい。その旨を伝えると、今度はどちらが五月蝿かったのか言い争いを始めた。その言い争いに、いつ何処から入ってきたのか、見知らぬ人が大勢混じっている。そうして皆で部屋中ドタバタと走り回って。
 煙のようにふっと消えた。

弐 山奥の水遊び
 山奥の水辺。鬱蒼と繁る木々の中に、小さな滝と澱んだ川。滝と言うより小川が大きな岩の隙間から降りてきているような、その小川が降りてきた先に水の澄んだ狭く深い池とそこから糸のように細く流れ出る川があるような、そんな水辺。
 そこに水遊びにきている、大学生くらいの複数の男女。私という人間はその中にはおらず、夢を見る度に彼らの中の誰かに間借りして水遊びの様子を見ている。黄色い声を上げてはしゃぐ女になったり、飛び込みを競いあう男になったりする。

参 山奥の水遊びの続き
 山奥の水辺。鬱蒼と繁る木々の中、小川が大きな岩の隙間から降りてきて、小川が降りてきた先に水の澄んだ池と糸のように細く流れ出る川がある、そんな水辺。
 私は飛び込みを競いあう男になっている。
 私は水に飛び込む。澄んだ水の中、目を開けると岸を象る石やそこで遊ぶ女達の白い脚、水草や小魚が見える。いつもならばそれだけのはずなのに、いつもとは違い滝から離れていくとどんよりと緑色に濁り始める。そんな濁り始めた水の中に、何か塊が浮いている。手を伸ばすとそれは魚の死骸。
 今まではなかったその状況に驚いて、死骸から泳いで離れると、また更に大きな魚の死骸。離れれば離れるほど、大きな魚の死骸に遭遇する。
 そうして一際大きな死骸にぶつかって悲鳴を上げて。


 それが私の見る、繰り返しの夢の話。何の他愛もない夢の話。誰だって、訳が判らなくて怪しい、不可思議な夢を見る事はあるでしょう。
 おや、そう言えばあなたと話している此処は何処なのでしょうね。窓も入り口もない、真っ白な部屋の真ん中。あなたは狐の面をかぶって。


...




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