# 連絡待ちの間に覚書とそれから…
2002年12月02日(月)
―― 緊急の事態だというのに、紅茶を淹れていた。
血の、鉄臭い匂いがむせ返るように臭う小さな台所で、薬缶を火に掛け、湯を沸かしていた。
どの紅茶がいいだろう。考えて、いくつかの茶葉から一つ選び出す。
温めたティーポットに茶葉を淹れ、勢いよく熱湯を注ぎ込む。
ティーポットを保温して、砂時計をひっくり返す。

音の殆どしない砂時計を目の前に、血飛沫の広がる床にぼんやりと佇んでいた。
次は、どこを拭こうか。
ドアに弾けた飛沫から。白いチェストを濡らす赤い一面から。足元の赤い点々から。
時間まで砂の落ちた砂時計に気付いて、紅茶をカップに注ぐ。
残りは、水筒に淹れた。
カップに口を付けながら、床にしゃがみ込んだ。
鉄分の臭いには慣れ始めていた。
むしろ、カップから香る紅茶の香りが、日常と非日常に曖昧な境界線を作っているようだった。

それでも、紅茶を淹れるという行為は、無意識が動かす防衛本能だったのだろう。
突如襲った非日常の中、日常の感覚に身を投じ、精神のバランスを取ろうとしたのではないだろうか。

血を拭きながら、何度か嘔吐した。
あまり物を口にしてなかったためか、胃液しか出てこなかった。
血の池を新聞紙で覆い隠し、視界から消した直後。
紅茶を淹れなければ、と脳が次の行動の指令を出した。
ただし、紅茶を飲み終われば、また赤い世界へ帰らなくてはならなかった。


私が本当に現実に帰り、耳にした声に安堵の涙が溢れたのは、朝方。




心配してくれて、励ましてくれた二人に、感謝の言葉は絶えません。
本当に、本当に嬉しかった。
ありがと。


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