オミズの花道
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『 王子様は報われない 』
2004年08月22日(日)
私の誕生日祝いを真田さんがしてくれるというので、6月の末くらいに永楽町の
トリトーネ
に行った。
私の好きなワインと、ペアのコース料理。
そ、そんな高いワインでなくてもいいのに、とか思いながら結局二人でフル2本を空けてしまった。
トリトーネはgigiよりも純粋な味覚を用いていて、新地の中のイタリアンで私はここが一番好きだったりする。
エビ、貝柱入りカルツォーネは私の好きな定番。ビックオリーブも大好き。
パスタはレモンとチーズとバジルだけというピュアな味わい。今回はこれもお気に入りの一つに加わった。家でも作ってみようと思う。
店内でグラスを傾けながら近況報告。
顔を見るとやはり言葉も和らいで、お互いに刺々しさがなくなる。
ずっとこんな調子で話せればいいのにねと、これまたお互いに笑いあいながら時間が流れていく。
『誕生日おめでとう。』
『ありがとう。二人でこうやってゆっくり食事をするのも久しぶりだよね。』
『なおちゃんも忙しいからね。』
『7・8月はもう少し忙しくなるかなぁ。本業もあるし。』
『多分、俺も忙しくなる。(後に出世の為だと判明)
今は週に1回〜2回は関西に居るけれども、8月は滅多に来ないな。』
『えええ。やだなあ。同伴がキツイわ。』
『ひどいな。会えなくて寂しいわとか言えないの?』
彼は笑いながら続ける。
『言わないだろうな、なおちゃんは意地っ張りだから。』
ワインが回ったのかいつものスマートな彼にしては珍しく、店に入る手前のちょっとした死角で、私をぎゅっと抱きすくめて来る。
少し淋しげな彼の表情に、逸らす事も忘れて私はじっとしている。
彼の胸はこんなにも広く、体はがっちりと堅く、腕は逞しいのか。
そんな風に思いながら。
香りも纏わず煙草も吸わない人なのに、仄かに何かが香る。
その正体は胸元にしまった扇子の白檀の香りだった。
『忙しくて会えない間でも、誰かのものにはならないように・・・・ね。』
不安そうに彼はつぶやく。
『・・・・貴方のものにならないのなら、誰のものにもならないでしょう。』
つとめて冷静に答える私。
冷静に、のつもりだったのに。
私は自ら彼の頬に手を運び、彼の顔を引き寄せ彼の眉間に口づけをした。
眉間へのそれは、唇への想いよりもむしろずっと熱い。
『ご、ごめんね。』
思ってもしなかった自分の衝動的な行動に、慌てて体を離す。
『謝られても。』
茶化して応えてくれたので、少しほっとする。
彼が帰路に着く車中、私はまだ勤務中。
一通のメールが携帯に届く。
『目元へのキスは、躯を重ねる時にして下さい。
そうでないとどうしていいか解らない。
愛情深いのは嬉しいのだけれど、
今日のフェイントはむしろ蛇の生殺しです。』
そ、そうですか。
でも蛇の生殺しって言われても。
そしてこれから一ヶ月半ほど会えない時期が続き、私たちは少し冷静になり距離を置くことになるのだ。
その事に誰よりもほっとしていたのは私。
誰よりも不満なのは彼。
ちょっと解らなくなってきた。
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