ケイケイの映画日記
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2011年06月05日(日) 「クロエ」




官能サスペンスのカテゴリーですが、凡作です。ムードや心理的葛藤はそれなりに楽しめますが、如何せん内容が陳腐で掘り下げが甘すぎ。フランス映画の「恍惚」のリメイクですが、私は元作は未見。何とか観られたのは、ひとえにヒロイン役ジュリアン・ムーアの好演のお陰です。監督はアトム・エゴヤン。

産婦人科医のキャサリン(ジュリアン・ムーア)は、大学教授の夫デビッド(リーアム・ニーソン)と一人息子のマイケル(マックス・シエリオット)の三人家族。偶然見た夫の携帯メールから、キャサリンはデビッドとその教え子の不倫を疑います。疑心暗鬼になったキャサリンは、娼婦クロエ(アマンダ・セイフライト)に夫を誘惑して、その一部始終を話して欲しいと依頼します。

と、ここまでは屈折した心理ですが、キャサリンの気持ちもわからぬではない。結婚生活は20年くらいでしょうか?後述でセックスは自分から断りセックスレス。崩れた自分の裸体を夫に晒すのがいやなのですね。まぁ、何て高い女としての自意識。見習わなくちゃ(嘘)。自分からセックスレスに追い込んでおいて、夫の浮気に発狂寸前です。何が彼女をそうさせるかというと、夫も50半ばなのに、現役感満点の渋い男っぷりのせい。自分は更年期から老いへと加速しているのに、夫の方は若い頃とは違う魅力を手に入れています。この辺の葛藤や苦悩は、男女の年齢における魅力の違いや、才色兼備の高学歴女性の悲哀に満ちていて、同情出来ます。売れっ子産婦人科医の心理としては甘いですが、現実はこんなもんですかね?

と納得出来たのはここまで。妻は仕事そっちのけで、どっぷり神経を病み、頭の中はクロエと夫の事だらけ。しかしだね、私はクロエの密告を聞く限り、これはおかしいんじゃないの?と、その裏は気づきます。いい年の男が、街でモーションかけた若い女と、二人きりでキス出来る所を探したりする?長く時間をかけて落とした女ならともなく、その場限りなら速攻ホテルでしょ?疑心暗鬼中の妻ならともかく、私なんかすぐ裏のからくりがわかっちゃったわ。

何故クロエはこんな行動に出たか?その辺結果だけを描いて動機が全く描かれいないので、クロエの心模様がちんぷんかんぷん。いくら50にして脱ぎまくる素敵なジュリアン・ムーアさんがお相手でも、これではあかんわ。クロエを変質者にするサイコサスペンスにしたいにしても、これでは中途半端過ぎです。




映画と関係ないけど、参照画像として去年のブルガリのムーアさんのポスターです。何て美しい・・・。ちなみにアタシより一つ年上です(驚愕)。まっ、これを観るとクロエさんの行動にも理解を示せるんですが、如何せん演技派のムーアさんは、この作品では疲れた中年女性を見事に体現しておられます。

で、話を戻すとですね、息子は何のためにご出演?これも無理からクロエの魔性や謎を引き立てる役目であろうと思うのですが、こいつが女の子を家に連れ込んだり、円満だった両親がこの一件で諍うのをたった一度観ただけで、「もうこんな家いやだ!」と言うバカ息子なわけです。今まで裕福にぬくぬく暮らしてきたはずの息子、打たれ弱いと言うか、ただのアホと言うか。いやなら出て行け。男前でもないし、これはアマンダのナニのシーンのための、噛ませ犬的にしかこの展開じゃ感じません。

ジュリアン・ムーアは、オバサンの可愛らしさ全開の「キッズ・オールライト」とは打って変わって、社会的地位のある女性でも、男女間に置いては容姿の衰えに全ての原因を求めるって、私たち普通の女と同じよねぇ〜という共感を呼ぶ演技で、いつもながらの百点満点の演技。彼女一人で作品を引っ張っていた感があります。ニーソンは夫の造形は彼を当て込んで書いたのじゃないの?と言うくらい、役柄にぴったり。アマンダは私は期待してる若手なのですが、う〜ん、美しい裸身を出し惜しみなく披露している点は買いますが、いまいち魅力が不足。個人的にアップも美しく撮れているとは言い難かったですし、謎めいた妖艶さも表現不足でした。

無理にサイゴタッチに持って行かず、忍び寄る老いに怯えるキャサリンの心理と、クロエのキャサリンへの複雑な感情を掘り下げて描いた方が、良かったと思います。それとサスペンスなら、最後くらいドンデン返ししなさいよ。あれじゃ捻リも何にもないじゃん。

当方社会的地位もなく、容姿も歳相応に崩れております。近頃じゃ開き直っておりますが、夫もその辺のオジサンさんなので浮気の心配も無く、キャサリンの哀しみはございません。うちの息子たちもバカですが、それなりに苦労しているせいか、この作品の息子よりは、ず〜と親孝行で出来が良いです。とまぁ、失うもんが少ない方が世の中強い、を実感させてくれたのだけが拾いもんでした。


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