ケイケイの映画日記
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| 2026年03月06日(金) |
「木挽き町のあだ討ち」 |

出だしの華麗な仇討ち場面で、あぁそうなのか、とは解るんです。でも何故そうしたかが、とても大切な作品でした。豪華キャストが奏でるお江戸人情ミステリーで、大変面白く楽しく、含蓄のある作品でした。監督は港孝志。
歌舞伎の舞台小屋「森田座」の前で、美濃遠山藩士・伊納菊之助(長尾謙杜)が、見事な父親・清左衛門(山口馬木也)の仇討ちをして一年半。菊之助が妹の許嫁だと名乗る加瀬総一郎(柄本佑)が、森田屋を訪ねます。虫も殺せぬ菊之助が、仇討ちを成し遂げた事に疑念を抱く加瀬。彼は、菊次郎が暮らしていた、森田屋の人々を訪ね歩きます。
冒頭の仇討ち場面が、ほぉ〜と見惚れます。ちゃんとした立ち回りで、緊張感と暴力的な凄みの中、とっても華やかで、まるで舞台の一場面のよう。これにも訳がありました。菊之助の一生懸命感が、前面に出ているのも良い。「炭小屋」はヒントであるのは、判りました。
森田屋での加瀬の聞き込みで、ここの人々は、人生に出自に、皆々が苦悩や挫折を味わい、流れ着いた「訳アリ」と解ります。そうよね、歌舞伎役者は、大昔は瓦乞食と言われていたんです。座付き作者の金治(渡辺謙)の元、座員の全てが、傷の舐めあいではなく、切磋琢磨しながら助け合って、飯の種を分けあう姿が、暖かい。その暖かさに菊次郎は傷心を癒やしたのだと、加瀬は理解します。
世の中には上流ばかりではなく、下流でしか生きられない人もいて。その人たちが、仇花ではなく、真っ当な花を咲かせる場所、それが森田屋なのだと思います。
武士の本懐を果たすため、幼い時から自分を慈しんでくれた、下男の作兵衛(北村一輝)を、心ならずも討たねばならない菊之助。その心中を誰よりも解っていた菊之助の母たえ(沢口靖子)。見栄や沽券ばかりの武士の掟から、どうか息子を解放してやって欲しいと、幼馴染の金治に、涙ながらに懇願します。この場面は、今の世の中にも通じる感情で、心に沁みました。
しかし私が涙したのは、「情けない主人ですまぬ!」と、号泣しながら畳に頭をこすりつけた、清左衛門の姿でした。武士の沽券など微塵もなく、ただ正義を貫きたい、家名も守りたい姿が、そこにありました。家名を守るとは、言い換えれば、妻子を守る事なんだと、瞬時に理解出来ました。武士の矜持の根底を観た思いで、武士に対しての敬意も感じます。
これも演じる山口馬木也の熱演です。「侍タイムスリッパ―」で一躍躍り出たみたいに言われていますが、私は「剣客商売」を楽しみに毎週観ていたので、彼は先刻承知。大二郎役は清々しくて、彼に良く似合っていました。良い役者なのに、なんで芽が出ないのかと思っていたので、やっと本領発揮という感じですかね。
私、柄本佑が好きなんです。若い頃より今が好き。軽妙洒脱でユーモアも知性もある彼の個性が、加瀬のキャラに溶け込んでいます。佑だけじゃなくて、主要キャラはたくさんいるんですが、皆さん地ですか?くらい、役柄に溶け込んでいます。いつもは地味な立ち位置の正名僕蔵だって、もうピンピンにキャラが立っていて、大御所の渡部謙と同じらい印象に残ります。演出・脚本・演技と、三位一体じゃなきゃ、こうは行かない。役者はちょい出でも名のある人ばかりでしたが、皆に花を持たせて、素晴らしい。
特に良かったのは、昔女形だったという二台目ほたる役の、高橋和也。もうお母さんにしか見えない!母性全開で、菊之助を抱きしめるシーンなんか、共感しまくりでした。年季のいった女性の、肝っ玉の据わった暖かさでした。とにかく、役者はみんな超が付くほど良かった!
武士の美学と、下流に大倫の花を咲かせる人々を並べて描き、見事に両立させた作品です。この楽しさと温もりを、どうぞご覧ください。
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