ケイケイの映画日記
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2024年04月07日(日) 「オッペンハイマー」(IMAX)




長い映画が大嫌いな私ですが、それでも観なくちゃいけない作品はある。それがこの作品。でもあまり期待はせず観ました。監督がクリストファー・ノーランなので。私にとっては立派な監督の認識はあるけれど、好きでも嫌いでもないない監督です。いつもそれなりには、楽しむのですけどね。今回は長時間にダレルこともなく、そこそこ面白く観られました。

第二次世界大戦の中、アメリカはドイツに先駆けて、原子爆弾の開発のための「マンハッタン計画」を推進することになりました。そのリーダーに、天才科学者、ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)を任命します。オッペンハイマーの元、優秀な学者が集められ、ニューメキシコ州のロスアラモス研究所にて原爆の製造に邁進。、ついに世界初の核実験を成功させます。

先ず原爆を作った人として、オッペンハイマーの名前は知っていましたが、彼がユダヤ人であること、原爆製造の軋轢と過程など、、名前以外の事はまるで知らなかったので、彼の公的背景を追うのは、とても興味深かったです。

反対に「私的」な部分では、びっくりの連続。共産党の党員ではないにしろ、党員と親しい関係に遭った事。(それが後で問題になる)。党員の精神科医のジーン(フローレンス・ピュー)という恋人がいながら、人妻のキティ(エミリー・ブラント)に手を出し、W不倫さながらの中、オッペンハイマーの子を妊娠したのを契機に、キティは前夫とは離婚しオッペンハイマーと結婚。しかし婚姻中にジーンや友人の妻とも関係し、あまりの好色ぶりにびっくりでした。

自分を裏切った弟子の握手にも応じたり、原子力委員会委員長のストローズ(ロバート・ダウニーjr)を、必要以上に人前で恥ずかしめ、ストローズは執念深くその事を覚えていて、オッペンハイマーは彼に失脚させられます。いやもう、学問以外は隙だらけの人ですよ。良く言えば人間臭く、悪く言えば学問バカです。

原爆開発の過程は、まるで池井戸潤原作のお仕事ドラマ・映画さながら、汗と熱意、それ以外にも狡猾な人間模様が繰り広げられます。とにかく原爆の成功に、皆が一心不乱です。私生活の隙だらけの人とは思えぬやり手ぶりに、これが成功する事は、何を意味するか、オッペンハイマーの脳裏には、すっぽり抜けていたのではないか?この事を言いたいが為に、相反する彼の二面性を浮き彫りにしたのではないかな?

だから、日本への原爆投下後のオッペンハイマーの密かな罪悪感が、段々増大する様子も、綺麗ごとではなく納得出来るものでした。開発ありきで、その結果は、想像していなかったのですね。この苦悩は、日本に住む者からすれば、もう少し深追いして欲しかったですが、アメリカでは、この描写の方が、受け入れられ易いように感じました。トルーマン(ゲイリー・オールドマン)の、
「人は君を人殺しとは思わない。人殺しは私だ」の言葉は、この作品の主張でもあるのかも。戦争は国民のせいではなく、政府のせいだと言いたいのだと思います。

オスカー受賞のマーフィーは、私は大好きな俳優です。美しいブルーの瞳は印象的でミステリアス。善人にも悪人にも見える。底が深いのか浅いのか掴みどころのない、今回のオッペンハイマーにはとても適役だったと思います。抑揚が少ない演技でしたが、オッペンハイマーとは、どんな人だったのか、私なりに咀嚼出来ました。

オスカー受賞はならずでしたが、エミリー・ブラントもとても良かった(彼女も昔から好き)。育児ノイローゼになる、か弱い様子から、恐妻というより強妻になる過程も、澱みがないです。妻の前であれこれ言わなくても良い事を喋って、オッペンハイマーもバカな男だよね。母親なら許せても、妻は許すはずがない。妻は母親ではありません。彼は「僕たちの夫婦は普通では理解出来ない絆で結ばれている」みたいに言いますが、それは夫だけが思っているかと感じます。妻はとうに夫としては見切りをつけ、家族として、夫を認識していたかと思います。多分そんな事は、夫は死んでも判らなかったでしょう。

他にはキャストも超豪華で、登場人物が大変多い為、著名な俳優ばかりのお陰で、頭の中で交通整理するのに助かりました。ケイシー・アフレック、ラミ・マレックのオスカー主演賞受賞俳優の贅沢な使い方も、ノーランのハリウッドでの立ち位置を観る気がしました。

WOWOWのオスカー中継の解説で、アメリカ在中の町山智弘氏が、今までは戦争を終焉させるため、原爆の投下は必要だったの認識が、近年は投下は間違いだったの認識が上回ってきているとの事でした。私が思うに、戦争終焉説の人たちが、段々亡くなっているのが、その理由ではないかと想起しました。だからこそ、何故戦争はいけないのか、理路整然と若者や子供たちに伝える事が重要だと思います。オッペンハイマーの友人のラビ(デヴィッド・クラムホルツ)が、「自分の研究が、兵器なんかに使われたくない」の言葉が、一番私の心に残りました。





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