ケイケイの映画日記
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2023年01月22日(日) 「非常宣言」




非常宣言とは「飛行機が危機に直面し、通常の飛行が困難になったとき、パイロットが不時着を要請すること。これが布告された航空機には優先権が与えられ、他のどの航空機より先に着陸でき、いかなる命令を排除できるため、航空運行における戒厳令の布告に値する」と言う意味だそうです。私も初めて知りました。結論を言うと、とにかく最後まで超面白い!サスペンスとして一級品ですが、政治や国家に対しても、考える時間を貰いました。職業の矜持、親子・夫婦の愛情の尊さも感じさせ、娯楽作として限りなく満点です。監督はハン・ジェリム。

ハワイに向け飛び立つKI501便。しかし離陸後間もなくして、1人の乗客男性が死亡。直後に、次々と乗客が原因不明で死亡し、機内は恐怖とパニックの渦に包まれていく。やがて殺傷能力の高いウィルスが、ジンソク(イム・シワン)のよって、機内に持ち込まれたと判明。政府はバイオテロと認定し、善後策を練ります。

まったりとした様子ながら、刑事の勘が働き、ネット予告のテロ犯の捜査をするク刑事(ソン・ガンホ)と、犯人のジンソクの行動が交互に描かれます。これが奇抜で度肝を抜かれたり、まったりしていたのが一気に緊張が走ったりで、不穏な空気が徐々に高まり、冒頭から目が釘付けに。

ハリウッドの「大空港」シリーズでもそうですが、グランドホテル形式の、登場人物たちの交錯の描き方も上手い。全員キャラも確立、迷う事もなく、背景や理由に疑問もなし。背景の主軸に、正義や職業の矜持、夫婦や親子の愛に重きを置いていたので、必ず誰かに共感が出来、感慨深く感じる瞬間があります。飛行機を舞台にしたサスペンスものは、機体の故障だったりハイジャックが多いですが、薬剤を持ち込み、全員を殺傷しようとするのは、私は記憶がなく、目新しさもあります。

私が一番心に残ったプロットは、自分でも意外ですが、国家の在り方と政治家の矜持でした。ちょいネタバレですが、燃料が尽きそうで、他国に緊急着陸を求めるも、断られるのです。強引に着陸しようとすると、KI501便は攻撃される羽目に。

でもこれは、私は当然だと思いました。未曾有のウィルス、乗客乗務員は全て感染している飛行機を受け入れることは、自国にウィルスを持ち込む事です。国の利益を優先させたのではなく、国民の安全を一番に考えたわけで、政府として一番大切な事ではないかと感じました。攻撃の後、「KI501便の無事の帰還を、心より願う」の相手国のアナウンスは、一見矛盾しているようですが、着陸を許可できなかった無念さも含めた、心依りのエールだったと思います。その後の韓国国内での喧々諤々の世論の演出も、その事を後押ししていると思います。このアナウンス一つで、ぐっと作品の格が上がったと思います。

政治家で感銘を受けたのは、チョン・ドヨン演じるスッキ国土交通省大臣の、「責任は全て私が取る」と言うスタンスで、人命第一。ウィルスの上陸に及び腰の、その他の政治家・官僚をバッタバッタなぎ倒して行く姿です。何度も出てくる「国家公務員は国に尽くすもの」と言う言葉は、言い換えれば、韓国にもその矜持を持つ人は、少ないと言う事だと思いました。エンタメを楽しもうと臨んで、これ程「国家」とは何か?を、感じるとは、思いませんでした。

絶体絶命の中、乗客の心が一つになった感情は、私は少々綺麗ごとが過ぎると感じましたが、一緒に観た夫は感動したそうで、これはこれで良いのかも。ガンちゃん刑事の超勇み足も、乗客の一人に妻が居ればこその大胆な行動で、妻への愛の深さを感じて、異論はないです。

俳優陣は全て好演ですが、私はキム・ソジンが演じるチーフパーサーが心に残りました。今まで記憶になった人で、若い頃のマギー・チャンを彷彿させる、ノーブルな美貌です。人格の高さと母のような包容力で、乗員・乗務員とも、まとめています。




それとラストで、犯人の生い立ちに言及して、そこから犯行動機を探ろうとする尋問に、スッキ大臣は「人間には理性で制御できない人が、一定数いると思う」と反論します。筋とは関係ないですが、私はスッキ説も賛成です。一言で言うと、「良心が備わらない人」です。生い立ちの掘り下げと並行して、メカニズムを解明できれば、未然に犯罪も防げると思いました。

危機また危機の合間の、束の間にホッとする時間に胸打つ感動があり、とにかくずっと面白いです。大阪では上映時間も減っていないので、口コミで面白さが広がっているかな?余波で全国公開になった暁には、地方の方も是非ご覧ください。


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