ケイケイの映画日記
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2019年03月24日(日) 「ブラッククランズマン」




「グリーンブック」が白人目線だと、この作品の監督スパイク・リーが吠えていると聞き、早速検証(?)のため観てきました(笑)。うんうん、わかります。でも私はもっと過激に作ってんのかと想像していたので、意外と手控えてるなぁと言う感じ。最後の最後まで、この作品も大変面白かったです。

1970年代初頭のアメリカ。コロラドスプリングス署、初の黒人警官となったロン(ジョン・デヴィッド・ワシントン)。ある日白人至上主義の秘密結社団体KKKが、メンバー募集の広告を新聞に出しているのを見て、白人を装い電話をします。相手はすっかりロンを白人だと思い込み、面接の日が決まります。同僚のユダヤ人系のフリップ(アダム・ドライバー)を自分に仕立て、KKKでの面接は見事合格。こうして黒人と白人が合体して、潜入捜査すると言う、前代未聞の作戦が始まります。

予告編を観て、コメディ仕立てだと思っていましたが、確かに前半は毒のあるユーモアがたっぷり。その中にしっかり、黒人差別・偏見に対して、悪意や無意識ない交ぜになって、ロンを襲うシーンが出てきます。黒人犯罪者を、ロンの前でスラングを使い侮蔑する警官たち。あれは屈辱ですよ。ロンが部署変えを懇願するのも、無理はない。

手始めの潜入捜査は、黒人大学生が中心となっての、ブラックパンサーのリーダーを呼んでの講演。この講演内容が圧巻。フリックは「すごい」と表現しますが、虐げられた歴史の怨み辛みを晴らすのではなく、黒人は今のままで充分素晴らしい、胸を張って生きていける価値がある、それを邪魔するものは破壊しろと、自己肯定感を高く引き上げ、戦闘能力も上げる威力満開のもの。もう初っ端から、監督がヤル気満々なのがわかります(笑)。

大学生のリーダー、パトリス(ローラ・ハリアー)と知り合い、捜査と恋心の狭間に悩むロン。二人が酒場で踊るシーンは、懐かしの「ソウルトレイン」を思い出しました。私が思春期の頃は、この番組だったり、マイケルがジャクソンファイブからソロで曲を出したり、ディスコミュージック花盛りで、私が黒人に偏見がないのは、音楽が一端です。でも一番は、高校時代、倫社の先生がドラマの「ルーツ」を見ることを宿題に出した事。どうして黒人が奴隷として扱われるようになったのかが詳しく理解出来、今でもこの事は先生に感謝しています。差別・偏見を失くすには、文化と教育が大事と言う事ですね。

二人一役の白人・ロンは、KKKの武闘派フェリックスに怪しまれるも、リーダーの穏健派ウォルターの執り成しで、何とか無事仲間入りの日々を過ごします。まぁ電話だって、これ以降フリップが出ればいいと思うんですが、それじゃKKKをコケにする事が出来ないからか、以降も電話はロンが担当。ここは目をつぶろう。

最初は乗り気ではなかったフリップですが、「自分はユダヤ人である事の認識が薄かった。家庭の教育も宗教もだ。でもこの捜査を始めて、それではいけない、この捜査を成功させなくてはいけないと思っている」と、心境をロンに語ります。KKKは白人でもユダヤ人は否定。ラテン系やアジア人もです。ロンは電話中、フリックは潜入中に、何度も「汚いニガー」「ユダ公」など、自ら侮蔑の言葉を吐きます。これが本当に強烈に胸が痛む。痛ませるのを意図した、リーの演出だと思いました。私はこの作品で一番深く心に残ったのは、このフリップの台詞です。言われなき差別に直面したら、逃げるか戦うか、そこには、今までの人生が投影されるはずだから。私も戦います。

後半はコメディタッチを残しながらも、何時かはばれてしまうのか?KKKはどんな手を使ってくるのか?と、ハラハラします。KKKが出てくる映画で、私が思い出すのは、「背信の日々」と「ミシシッピー・バーニング」です。後者は差別の根源は、「貧しさ」だとジーン・ハックマンに語らせます。この作品のKKKも一部を除き、プアーホワイトと思しき人が多い。特にフェリックスの妻コニー。大層太っていて、食事や接待など集会の世話をさせるのに、友人たちの前で話す事すら、夫は許さない。そして「大きな仕事」を妻に任せますが、それは大変危険な仕事。それでも彼女は夫の事を、「こんな私を愛してくれる人」として、夫について行きます。コニーの造形は、白人である事以外、自己肯定出来ない人、自分に自信がない人が、白人至上主義になると言っているようです。事実それが、世界中の極右を支持する人の正体なのではないかしら?

自分の友人が、如何に凄惨な目に合わされたかを、大学生たちに語る黒人の老人。時を同じくしてKKKは華やかな集会を行っている。交互に「ブラック・パワー!」「アメリカ・ファースト!」を集団で連呼する演出は圧巻で、脳裏に焼きついています。「アメリカ・ファースト」と言えば、トランプの専売特許だよなーと思っていたら、2017年の現実の映像が流れ、一見ドキュメンタリー風に場面は転換。流れをぶった切る演出は、拙いとか上手いとか言う以前に、どうしてもこれを、監督は入れたかったんだと、その気持ちが強く伝わったので、私はOKでした。今も昔も、黒人の悪しき状況は、代わり映えしていない、それが言いたかったのだと思います。

主演のワシントンは、私の愛するデンゼル様の息子なんだとか。お父さんの方が素敵だわ(笑)。でもジョン君も愛嬌ある雰囲気で、好感度は高し。アダムは娯楽作、問題作、インディーズと何でもござれで、全部上手いのに、どれもアダム・ドライバーとしての個性が出ているのがすごい。今後もっと出世すると思います。

作品としては「グリーンブック」の方が、間口が広く端正に作ってあって、オスカーには相応しいとは思いました。差別に対しての入門編と言う感じかな?「ブラック・クランズマン」は、良い白人はちっとも出てこず、視点にかける点もある。でも私が何年経っても、強烈に覚えているのは、多分この作品だと思います。リーの叫びは、いつまで入門編でお茶を濁してんだ!と言うところでしょうか?

ラスト、ロンとパトリスが未来へ向かって闘うのを想像させる演出は、リーの今の心境なのでしょう。還暦過ぎての燃える闘魂を見せて貰って、私もファイトを貰いました。


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