ケイケイの映画日記
目次過去未来


2019年03月14日(木) 「運び屋」




いやー、もう脱帽!俳優は引退したはずの88歳のクリント・イーストウッドが
復帰。主演と監督を兼ねる作品。何故復帰したかと言うのは、見れば一目瞭然。作品をベストに仕上げるには、主人公は彼が演じるしかなかったと思いました。凡庸な人生の最終章に起こる、仇花的な出来事を、人生の集大成にしてしまう、鮮やかな作品でした。

花作りを営む90歳のアール(クリント・イーストウッド)。かつては繁盛した仕事ですが、今はネットに仕事を奪われ、家も差し押さえられる有様。長年仕事にかまけて家庭を顧みず、妻(ダイアン・ウィースト)や娘(アリソン・イーストウッド)殿間には、深い溝があり、家族はアールを拒否します。ひょんな事から、荷物を運ぶだけで大金が貰える仕事を紹介して貰うアール。当初は、何を運ぶか知らなかった彼ですが、実はそれはメキシコから麻薬を運び出すと言うもの。しかし大金に味をしめてしまったアールは、そのまま麻薬を運ぶ事を選択します。

前半は現在の孤独な境涯から一転、羽振りの良くなったアールの変貌を映します。肩で息をしながら、前屈みに歩く今にも倒れそうな老人だったのに、羽振りが良くなってくると、シャキッとして、ファッションも垢抜け、新車を運転する姿が似合うのなんの。俗な歌詞のカントリーを、ラジオとともに鼻歌を歌い、果ては「仕事」の道中に好き勝手寄り道までして、お目付け役の組織の若いもんを煙に巻く。

麻薬元締めのアンディ・ガルシアに気に入って貰い、プレイボーイクラブのラテン版みたいな所で、まさかの酒池肉林。孫ほどの女相手に、「心臓の薬を飲まなくちゃな」とジョークを飛ばし余裕綽々。冒頭嫌味なくお婆ちゃんたちにおべんちゃら言う様子から、女好き&その道の修行はかなり積んだ御仁のはずで、痛快ですらあります。

悪い事してせしめたお金は、妻子や孫に渡したり、退役軍人のために使ったり(自分も退役軍人)と、慈善と詫びの行脚の日々は、まるで善行を積んでいるようにまで見え、老春を謳歌しているように見えます。しかめっ面で麻薬組織撲滅に邁進する警察の面々(ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン)なんか、人生の楽しさを知らないバカに見えちゃうほど。

しかし、そんな日々は長く続くはずもなく、アールにはお仕置きが待っている。そんな時にかかって来た孫娘からの一本の電話。軽妙な語り口に、楽しく見られた前半は、この後を描くためのものだったのでしょう。

アールは悪い夫や父ではありましたが、決して悪人ではありません。むしろ他人は良い人だと言うでしょう。なのに妻子は憤懣やるかたない。アールは良き夫、父とは、お金を運ぶ人だと思っていたのですね。お金を運んでいるから、妻子の事は本当に心から愛しているので、他は何をしても許し貰えると、思い込んでいたのでしょう。「仕事だ」と言えば、妻子は黙って当然だと。ほったらかしにする事に、チクリと胸は痛んでいるはずなのに、むしろそれがカッコいいとさえ思っている。これはアメリカだけじゃなく、日本でもどこでも世界中に、たくさんたくさんたくさんいた夫です。

過去形になりつつあると思います、今はね。アールは黒人をニグロと呼びますが、今はブラック。世の移り変わりをわかろうとしないアールを、若い黒人夫婦は、嗜めます。

お金も自分の命すら顧みず、アールがした事は?家庭をほったらかしにし、その贖罪のつもりで、しこたまお金を渡しても、決して許さなかった娘が、何故父を許したか?ここを是非読み取って欲しいと、心から思います。

イーストウッドが超素敵なんだなー。ほんと色男なんだわ。男の残り香に多少の加齢臭を漂わせ、それがまた、味わいになっている。奇跡の88歳(笑)。私は御爺さん俳優は、マックス・フォン・シドーを愛しているんですが、シドーだとやっぱり、色気に北欧の品が入ったりするけど、これはアメリカの「タタ(メキシコ語で御爺ちゃん)」のお話。俗っぽくて粋で、そしてやっぱりハンサムでなきゃ。自分が復帰するしか、ないと思ったんでしょうね。


「ギルティ!」と叫ぶアールの、その言葉の意味は、麻薬を運んだ事ではなく、夫・父としての自分は有罪だと言う意味だと思いました。その心が娘の届いたから、「パパ愛しているわ」と言う言葉を、引き出したのでしょう。

思えばイーストウッドも何回も結婚離婚を繰り返し、愛人だったソンドラ・ロックにまで訴えられていましたっけ。実娘のアリソンに、実生活をだぶらせる役を宛がうのは、素のイーストウッドの、アリソンに対する侘びにも感じるのです。

妻の誕生日を忘れたブラッドリーに、二度と忘れちゃダメだ。俺のようになると、自嘲気味に語るアール。私の父は五回の結婚と四回の離婚を繰り返した、子供にとって迷惑きわまりない父です。そのお陰で、母親の異なる7人の子供のうち、行き来があるのは、私と現在の妻との間にいる娘だけ。その父が、私に幾度となく私の語るのが、「お父ちゃんは、お金さえ稼げばええと思っていた。金を稼いでいるんやから、何をしても許されると思ってたんや。でもそれは間違っていたと、今後悔している」。この言葉が聞けて、私は父を見限らないで良かったと、心から思います。

私の親父そっくりなアールが、現在少々家族疲れしている私に、活を入れてくれた作品。男女ともしっかり、イーストウッドのメッセージを受け取りたいですね。


ケイケイ |MAILHomePage