ケイケイの映画日記
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2018年07月16日(月) 「バトル・オブ・ザ・セクシーズ 」




良かった!すんごいすんごい良かった!私はね。私はテニスは観るだけで、学校の授業でやったくらいで、それほどファンじゃありません。それでも学生の頃は、女子はナブラチロワとエバートが二代巨頭で、割と熱心に観ていた記憶が。もちろんこの作品のヒロイン、ビリー・ジーン・キングも功績と共に知っていますが、こんな史実が合ったとは。私の最近のキーワードは「不屈」「元気」「自由」なので、とても心境にマッチした作品です。監督はヴァレリー・ファリス&ジョナサン・レイトン。

1970年代のアメリカ。全米女子テニスの女王、ビリー・ジーン・キング(エマ・ストーン)。彼女は女子の優勝賞金が男子の1/8である事に反発。会長のクレイマー(ビル・プルマン)に訴えるも、すげなく却下された事に反発し、賛同者を募って女子だけの協会を設立。ビリーの友人で、優秀なアドバイザーのグラディス(サラ・シルバーマン)は、スポンサーを程なくゲット。女子だけの大会を開催し人気を博し始めた頃、元世界王者のボビー・リッグス(スティーブ・カレル)が、ビリーにエキジビジョンマッチを申し込みます。彼は男性至上主義者の55歳。イロモノ扱いされるのは御免と、一度は申し込みを断るビリーでしたが、ボビーは有力選手のコート夫人にも試合を挑み、勝利します。世間の目が、また男性にだけ傾くのに反発したビリーは、ボビーの挑戦に受けて立つ決意をします。

テーマは「誇り」だと思います。フェミニズムやウーマン・リブと言う言葉から、何を連想するか?男性と平等の権利を得て、自由な生き方を選択したいと言う願い、だと私は思っています。そこには、女性は男性より上だとか、男性のように生きたいとか、それは含まれていないはず。あくまで女性として、男性から敬意を払って欲しい、ただそれだけなのです。記者の不躾な質問に、ビリーは毅然と答えます。「私はただ敬意が欲しいだけなの」と。

男性至上主義のブタと自ら名乗るボビーですが、実はダメ亭主の自分を認識しおり、愛する大富豪の妻プリシラ(エリザベス・シュー)に認めて欲しくて、この対戦を企てます。そんな事は、妻はちっとも望んでいないのに。
男性至上主義のブタとは、テニス協会理事長のジャック(ビル・プルマン)やその取り巻きたちです。台所とベッドのみ、女性を愛しているのです。
決してビリーたちを認めない。

お話はビリー対ボビーや賃金格差のみならず、同性愛も絡んできます。ビリーは当時既婚。マネージャーの役割を果たす誠実な夫がいます。自分はノーマルだと思っていたビリーの前に現れた、自由奔放な美しき人マリリン(アンドレア・ライズブロー)。運命の恋に落ちる時は、あんなものなのでしょう。私が思うに、女性が相手なので、周囲や夫にはばれにくいと思ったのじゃないかな?これが男性相手なら、却って一線は飛び越え難かったと思います。

色んな要素を含んでの内容ですが、私が一番痛感したのは、男尊女卑の世の中を牛耳っているのは、一部の特権階級の男性だけではないのか?という事。ビリーもコート夫人も、経済的な大黒柱は彼女たちです。特にコート夫人は子供もおり、ツアーには夫が寄り添い子供の世話をする。この夫あればこそ、彼女はテニス史に名を残す名選手となり、女性としての幸せも手に出来たはず。ビリーもコート夫人も、絶対夫に感謝していたはずです。この「感謝」が、当時も今も、男性には欠けているのです。

奇想天外なアイディアで、道化のようなショーマンシップを発揮するボビーですが、彼も「男の沽券」の犠牲者です。ギャンブルが止められない自分を妻に賞賛して貰うには、「男」として世間から脚光を浴びることだと思っている。この幼稚な男の妻はしかし、「私は一緒にいて楽しいあなたが好きよ。でも私は「夫」が欲しいの」と涙ながらに語ります。すごーくすごーくわかるよ、プリシラ。でもあなたも、男の沽券に捕らわれている。

どちらが勝ったのかは、知らなかったので、結構手に汗握りました。終わった後、誰にも知られないように咽び泣くビリーに、貰い泣きしました。もう感情をコントロールする必要はなく、吐き出しているのです。尊厳を勝ち取ろうとするパイオニアは、一身に背負った肩の荷を降ろしたのでしょう。この人たちを、本当の孤独にしては、いけないのです。

ビリーと夫、ボビーとプリシラ。二組のカップルのその後が素敵です。各々「ねばならない」と言う呪縛や、「男の沽券」から自由となり、間柄を再構築させています。女性の解放は、男性を苦しめるプレッシャーからの開放にもなるのだと、痛感しました。

エマは顔の半分が目じゃないかと思うくらい、大きな目が印象的ですが、めがねを掛けると、この役にはちょうどいい塩梅(笑)。短くしたヘアは良く似合っており、知的でホットなビリーを好演。カレルは、こんな役やらせたら、もう最高!愛嬌と哀愁を共存させ、常に軽躁状態のようのボビーを好演。悪役ながら、それはフェイクと思わせたのは、彼の名演技のお陰です。地味ですが、マリリン役のアンドレアは、とても演技巧者で、私は大好きです。。女性の名バイプレーヤーで、私はローラ・リニーの立ち居地を継ぐのは、彼女だと思っています。今回も芯は強いのに、ふわっと軽やか、ビリーのために自分は何が出来るのか?と思慮深い女性を演じて、すごく良かったです。

ハリウッドの男女の賃金格差、「me too」運動の是非など、女性を取り巻く環境はまだまだ男女対等とは言えません。でも少しずつ、時代は動いている。あのクリス・エバートが、インタビューでこの対戦はボビーが勝つと予想をしているのを観て、当時なら私もそう答えたろうな、と思いました。でも今なら、絶対ビリーに勝ってほしい!と、答えます。この40年が、私を少しずつ変えたのです。男女とも、手を携えて世の中を変えて行かねば。フェミニズムの敵は、決して男性全てではありません。


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