ケイケイの映画日記
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2018年06月03日(日) 「犬ヶ島」





大好きなウェス・アンダーソン監督のストップモーションアニメ。実は私はワンコが苦手。及び腰ながら、ウェスのためならエンヤコラの鑑賞です。珍妙な作品ですが、とっても面白かった!ちょびっと感動までしてしまい、やっぱりウェスとは相性がいいんだわと、再確認出来た作品です。

近未来の日本、メガ埼市。蔓延するドッグ病対策として、小林市長は市内の全ての犬を、「犬ヶ島」に追放すると発表。今まで幸せに暮らしていた犬たちは、突然の事に右往左往している時、小型飛行機が島に墜落。乗っていたのは三年前の新幹線の事故で両親を亡くしたアタリ少年。現在彼は、遠縁の小林市長の養子です。アタリは、事故直後から自分を守ってくれた護衛犬のスポッツを救い出すため、一人この島へ来たのでした。アタリの犬となった五匹と共に、スポッツを探しが始まります。

日本の情景がそこそこきちんと描かれていて、感心しました。ちょっと昭和懐かしい風景が郷愁を誘い、いい感じです。市長の入浴シーンは、お決まりのゲイシャ・フジヤマの雰囲気でしたが、あれはニッポンのイメージを盛り上げる為に、わざとじゃないかなぁ。欧米なら、ジャグジーに美女みたいな。

音楽は今回もデスプラ。ただのオリエンタル趣味じゃなくて、ちゃんと日本人にも納得の出来だと思います。ところどころの太鼓の挿入も気分が上がります。

「だれそれの犬」と言う表現は、服従を誓わされた卑屈は人に向けられる表現です。ですがこの作品での、アタリが「今日からお前たちは、僕の犬だ!」(五匹に向かって)、「私はあなたの犬です」(アタリと初対面の時のスポッツの独白)など、飼い主である人間と、飼われた犬との幸せな間柄が滲むのです。五匹の犬たちが、アタリを「主人」と決めたのは、誰一人自分たちを救いに来た飼い主はいないのに、勇敢にもアタリがたった一人で乗り込んできたから。

犬より上の存在である人間には、犬を守り、リーダーシップをとって、犬本来の力を発揮させる義務と責任があります。アタリはそこに、犬への「愛と誠意」が満ち溢れているのですから、犬たちが忠実に彼に付いて行くのは当たり前です。これ、人間だけの世界でも当てはまる事ですね。昨今の世相を見ても、リーダーによって、状況は180度変わります。

五匹の中で、唯一野良だったチーフ。彼だけアタリに付いて行くのに懐疑的でしたが、孤高の様子の彼は、実は臆病で孤独に苛まれていたのです。その孤独が取り除かれた時、真に勇敢で忠実な、犬本来の姿が現れます(←ここで感動して泣く)。真の孤高は、孤独を超えたところにあるんですね。

ドッグ病には、小林市長の犬への積年の恨みと言う裏があります。お仲間の横には、これもペットとしては太古の昔から犬の宿敵の猫が。どれもこれも、めっちゃ性悪そうな顔(笑)。猫のペット数が犬を抜いたと読みましたが、この描き方は、犬派の監督の、一矢報いたい気持ちなのかも?(笑)。何となく微笑ましくて、笑ってしまいました。

先住犬には先住民族を投影し、外野からの客観的な目の必要性が重要と説く展開も良いです。外野がアメリカなので、いらぬお節介とも取れますが、ここは監督に免じて「第三者委員会」と取りましょう。ラストは正義は勝つ!の大団円で、とてもスカッとします。

犬好きさんへの言い訳になりますが、私は犬だけではなく猫もダメ。と言うか、動物全般苦手です。でも嫌いと言うわけではなく、怖いのです。何故だか解りませんが、物心ついてから、ずっとです。離れて観られる動物園は大丈夫。だから離れているなら、犬も猫もOK。代わりに爬虫類は全然大丈夫!(笑)。

寝起きに犬に囲まれていたなら、もう一度気絶する事必死な私ですが、もしかして犬が苦手なのは、人としての幸福の一部を放棄しているのかなぁと、今回初めて感じました。この感情は、CGでもなく実写でもなく、手のかかるクレイアニメで、丹精込めて作った制作に携わった人々全ての思いが、私に伝わったからだと思います。犬好きさんは、必見の作品


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