ケイケイの映画日記
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2018年01月08日(月) 「嘘八百」




既に御屠蘇気分も抜けて、フツーの生活に戻ってしまいましたが、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い致します。新年最初の一作目は、6日にやっと観たこの作品。予定調和にお話が進みますが、程よい人情話になっていて、品良く笑えてペーソスもたっぷり。楽しかったです。監督は武正晴。

しがない古物商の小池(中井喜一)は、西に運ありの占いを信じ、娘のいまり(森川葵)を連れ、はるばる大阪は堺まで来ました。そこで落ちぶれた陶芸家野田(佐々木蔵之介)に、いっぱい食わされます。しかしただでは起きない小池、それをきっかけに、二人を落ちぶれさせた因縁の大物鑑定士・棚橋(近藤正臣)に一泡吹かせようと、千利休にまつわる茶碗の贋作を作り、一世一代の大芝居を打とうと、野田に持ちかけます。

私は古美術・骨董品には、歴史の重みを伝える役目とは別に、どこか胡散臭いものも感じていたのですが、この作品で繰り広げられる丁々発止は、正にその思いを絶妙に表現していました。

棚橋によって贋作陶芸家に成り果てた野田が、一世一代の「贋作」を作るため、精魂込めて懸命に取り組む姿は、匠と謳われた、古美術を作った人々に通じるのだと感じます。当初は棚橋憎しと金に釣られたはずの野田ですが、一心不乱に器作りに没頭している時、頭の中には、良い器を作りたい、それだけだったと思います。その気持ちには、本物も偽者もないのじゃないか?

純粋に古美術に魅せられ、古の匠たちの思いを汲み、目利きを磨くのに、精進に精進を重ねてきた小池。そんな彼が言う、「人は観たいように観てしまうもの」の言葉は重いです。それに乗じて、自分の業界の権威と名声を餌に、野田の作った贋作を本物と偽って、小池に渡した棚橋と古美術商の樋渡(芦屋小雁)。古の人々に敬意を払わず、不遜にも汚い金儲けの道具としたのです。なので、この二人が「観たいように観た」時は、とっても痛快な気分でした。

定番で綴られる内容を、枝葉の演出が涙も笑いも誘います。それに味わい深さを与えたのは、適材適所の役者さんたち。かつての手酷い仕打ちに、うらぶれるも荒まないのは、小池・野田とも、元は熱く真面目な人だと感じさせます。各々キャラに合わせた役作りで、主演二人は安定の好演。負け犬人生を挽回させるコンビとして、相性の良さを感じさせます。

貫禄とはんなりとを共存させた、関西のご老人を演じて、最近は独壇場の近藤正臣。今作では、そこに絶妙の「いけず」を滲ませての好演です。若かりし頃のニヒルさも見え隠れさせ、まだまだ色っぽくて、敵役なのにチャーミング。チャーミングと言えば、小雁さん。この人、20年くらい、いっこも変わってないわ、幾つになりはったんやろ?と検索したら、何と84歳!台詞回しも声の張りも、全くお変わりなく、感服です。この人、こんな小悪党や可愛いお爺ちゃんだけでなく、怖〜い大親分の役も、難なくこなすんですよ。健在なのを確認出来て、すごく嬉しかったです。

その他、関西物には欠かせなくなった木下ほうか。演技か素かわからんけど、観ているだけで楽しい坂田利夫。利休ラブの様子がほのぼのさせる、利休記念館の館長塚地武雅など、大阪出身たちが更に楽しさを盛り上げます。

でもでも、私が一番感激したのは、野田の妻役の友近!情の深い糟糠の妻を、滋味深く好演しています。途中離婚の危機があって、「あんた、いきなり来てすき焼きよばれている人(小池のこと)に、好き勝手言われて、悔しないの?」と言った翌朝、家を出て行きます。重石になっている棚橋ならともかく、素性のわからぬ輩にまで、卑屈になる夫が許せなかったのでしょう。彼女の中で、プツンと張り詰めていた糸が切れて、出て行ってしまうのは、とても心情が理解出来ました。

一番好きなシーンも友近絡み。棚橋と樋渡によって、贋作作家と成り果てた夫が作った茶碗を、そうと知りながら、へそくりはたいて100万円で買い、お茶を飲むシーン。彼女に取れば、有名な作家の作品ではなくても、夫の作った茶碗は、100万の値打ちがあることを、野田にわかって貰いたかったのでしょう。

まぁそれ、若い時分の回想シーンやったわけで。長い事野田はそのまま腐っていて、妻の気持ちには応えていなかったと言うわけ。そして妻が出て行って初めて、やっとやっと目が覚める。男と言うか、夫なんか、こんなもんやわね(きっぱり)。てか、目が覚めるだけ、野田はマシかも知れません。

友近ね、映画もドラマも、何を観てもすごくお芝居上手いです。小手先の上手さではなく、熱演じゃないのに、情感を醸し出すのが、すごく上手い。芸人としても腕があるし、このまま行けば、浪花千恵子やミヤコ蝶々になれますよ。性格悪いらしいけど(笑)、このまま化け続けて欲しいです。

難を言うと、せっかく堺でロケしたらしいのに、利休の記念館と灯台以外、堺らしさがあまり感じられなかったことかな?包丁とか自転車とか、せっかくなので、地場産業も映して欲しかった。仁徳天皇稜とかもね(笑)。ラストに、また一芝居ありますが、これは余計な気が。あまりドタバタせずに、綺麗にまとめて欲しかったです。

大阪を舞台にすると、ガラが悪いかファンキーかに傾きがちですが、大阪の匂いを存分に放ちながら、上品に仕上がっているのも、ポイント高し。6日の土曜日は劇場満員でした。ヒットして欲しい作品でした。




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