ケイケイの映画日記
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2016年11月20日(日) 「ガール・オン・ザ・トレイン」





ご贔屓のエミリー・ブラント主演のミステリーと言う事で、初日に観てきました。ミステリーとしては凡作ですが、エミリー演じるアルコール依存症の女性他、登場する女性たちの物哀しさに心惹かれた作品です。監督はテイト・テイラー。

愛する夫トム(ジャスティン・せろー)と離婚したレイチェル(エミリー・ブラント)。二年が経ちますが、未だ傷心癒えぬ彼女は、毎日列車に乗り、我が家だった家を眺めています。隣に住む若夫婦スコット(ルーク・エヴァンス)とメガン(ヘイリー・ベネット)の様子に理想を見出し、自分の憧れをメガンに投影するレイチェル。しかしある日、メガンが別の男性とキスする様子を目撃します。その直後、メガンは忽然と姿を消します。

レイチェルが離婚に至ったのは、彼女のアルコール依存が原因です。依存の理由は不妊治療が捗々しくなかったから。以降このアルコール依存の症状が、作品の鍵を握ります。

トムは妻を支えるどころか、浮気相手のアナ(レベッカ・ファーガソン)に子供が出来たため、すぐに再婚。レイチェルの症状は加速します。常にお酒を片手に、記憶が無くなるまで飲むレイチェル。そしてお門違いの義憤に駆られ、卑しい心を正義感だと思い込み、意見や告げ口までする。惨めで哀れな彼女。

しかし惨めで哀れだったのは、レイチェルだけではありません。アナは「あなたの愛人だった時は楽しかった」と言います。幸せの絶頂のはずが、育児に疲弊し、夫は浮気していないか疑い、そして常にレイチェルの陰に怯えます。略奪した妻・母と言う立場に強気でいられるほど、彼女は厚顔ではないのでしょう。

夫と仲睦まじいと思われているメガンは、夫婦の営みを「私は娼婦」と言います。彼女も夫の独占欲と横暴さに疲れ果て、カウンセラー(エドガー・ラミレス)に診てもらっています。セックスを嫌悪しながら、男を誘うメガン。その奥の彼女の更なる秘密を知らされた時、深い同情の念が湧いてくるのです。

同情するのはメガンだけではなく、レイチェルやアナもです。皆が皆、妊娠・子育て・セックスと、自分の性に振り回されて、情緒不安定。そして夫と言うより、男性そのものへの依存。自分の幸せには、優しく抱きしめ、守ってくれる男性が必要不可欠だと渇望する感情。これを浅ましいだの自立していないだの、誰が嘆けるだろう。彼女たちの年齢の頃は、私だってそうだったじゃないか。

その幻想の終焉の描き方も、やはり哀しい。その中で際立った決別の仕方を見せたのがアナ。彼女が母親であることを思えば、納得出来ます。

美しき演技派・エミリーは、今回身も心も傷だらけで、目の周りはシャドーが滲み、汚れ役と言っていい役です。清廉なイメージの彼女にしては異色の役柄ですが、これも役の幅を広げるには良い選択で、今回も好演。レベッカは、今回ブロンドで、最初誰だかわかりませんでした。アクション女優と言う認識だったので、元愛人で現妻の苦悩と言う今回の複雑な役どころに、またびっくり。スウェーデンからはアリシア・ビキャンデルがハリウッドで引く手あまたですが、妖艶でクールなレベッカにも、是非頑張ってほしいな。

上記二人も素敵でしたが、私が一番魅了されたのは、ヘイリー・ベネット。成熟した色香を発散させながら、感情の浮き沈みの激しさは、まるで思春期の少女のように、脆く儚げです。これから出演作が続くようなので、注目したいと思います。

女性陣に比べたら、クズや暴君であるとされるトムやスコットの描き方は浅く、特にスコットには、情状酌量の余地があるように思えました。でも作品的には、そう思えたらダメなのかも?と言う気がします。女性を深く描くには、男性の描き方も掘り下げなければ、片手落ちです。アルコール依存の症状であるブラックアウトは、上手く内容に絡んでいました。特徴である、嘘に嘘を重ね、逃げ場がなくなる様子も、依存症の痛ましさを感じさせました。

アメリカでも日本でも、30代女性の憂いは同じようなものみたい。この憂いから脱出するには、自分を幸せにするのは、誰でもない、自分自身だと認識する事だと思います。愛されることを望むより、愛する事を望んで欲しい。相手は男性でも子供でも仕事でもいい。それが一番近道だと思います。その時きっと、ガールからウーマンになるのでしょう。







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