ケイケイの映画日記
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2016年07月18日(月) 「シング・ストリート 未来へのうた」




すごく良かった!素晴らしい!監督のジョン・カーニーの前作「はじまりのうた」も良かったのですが、湧き上がる絶賛の声には、当方少々体温が上がらず、普通に良かった程度。ラファロが出てなきゃ、二割引きでした。しかし今回は掛け値なしの大絶賛です。大不況に包まれた、閉塞的なアイルランドのダブリンを背景に、音楽ものとしても青春物としても、掛け値なしの傑作だと思います。

1985年のダブリン。不況のため父親が失業した15歳のコナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、大人しい私立校から底辺の荒れた公立校への転校を余儀なくされます。家庭では両親の夫婦げんかが耐えず、学校では早速イジメの標的にされるコナーですが、唯一の楽しみは、音楽ヲタクの兄ブレイダン(ジャック・レイナー)と見るM垢筺音楽談義。ある日校門の前で、謎めいた美少女ラフィーナ(ルーシー・ボーイントン)を見かけたコナーは、一目惚れ。思わず口から出ませに、バンドをやっているので、自分のバンドのPVに出て欲しいと言ってしまいます。作曲から楽器演奏まで、何でもござれの、同級生エイモン(マーク・マッケンナ)の他、急ごしらえでバンドを作り、さぁここからコナーの音楽活動が始まります。

とにかく瑞々しい若々しさでいっぱいです。そして全編に渡り80年代のミュージックシーンを席巻したヒット曲が大挙流れます。どれもこれも耳馴染のある曲で、それだけでも超嬉しい。最初コピー曲でM垢鮑遒蹐Δ箸靴織灰福爾法▲屮譽鵐瀬鵑蓮嵜佑龍覆能を口説くな」と説教します。以降ブレンダンの人生哲学は、のしのし弟を成長させていきます。

デュラン・デュランを聞けば、ヴィジュアル系のポップロック風、ホール&オーツを聞けば、ホワイトソウル風と、パクリを繰り返しながら、こうやって自分たちのスタイルを完成させていくんだと、バンドの成長が垣間見られて、すっごく感心しました。男子が女の子にモテたくてバンドを結成は、私は立派な動機だと思う。

荒れた学校では、お坊ちゃんっぽいコナーはイジメの対象、家に帰れば、のべつ幕無しで両親がケンカしている。兄弟三人がブレイダンの部屋に集まり、片寄合って嵐が過ぎるのを待つ様子など、思わず自分の思春期を思い出し、胸が痛みました。しかし嘘から出た誠として、音楽漬けの毎日は、コナーの生甲斐になっていきます。

コナーだけではなく、アル中でDVの父親を持つエイモン、父は飲んだくれたあげく交通事故死、母は躁鬱で入院中のラフィーナ、苛めっ子の彼だって、家では酒浸りの両親から暴力を振るわれている。みんながみんな、家庭に問題を抱えているのです。それを発散するのが暴力であったり、校則違反であったりなわけで。髪を染め化粧して登校するコナーを、校長が暴力的に抑え込みますが、あれが愛のムチであるわけがない。根本的な問題を探って解決するのが、教育なんだと、改めて感じます。

一度だけキレて、自分の葛藤をコナーにぶつけるブレンダンが切ない。母の鬱屈もきちんと見守っていたブレイダン。現在引き籠り中の彼が、何故そうなったのか、痛いほどわかる。もうここでも涙が出て出て。そこで逃げずに、「ちょっとトイレに行ってくるだけだよ」とだけ、隙間を作ったコナー。あそこであの部屋から逃げ出していたら、兄弟は不毛な時間に突入したはず。コナーは誰より兄が好きなのです。弟にそんなそんなに愛されるブレンダンだもの、頑張り過ぎて、今はちょっと休憩しているだけです、きっと。

どん詰まりの中、少し前進しては後退を繰り返す青春。それでも全編を貫く溢れる希望と笑顔はどうでしょう。何気ない場面で何度涙ぐんだ事か。若さって本当に素晴らしい!

一人ぼっちのラフィーナは、何もない今の境遇から抜け出そうと、モデル志望です。可愛い顔に濃いメークと作り込んだヘア、ちょっと隙のあるファッションは品はないけど、繊細で寂しがり屋の自分を隠し、強気な女に見せたい彼女の、戦闘服なのです。一度シャッポを脱いだ彼女が、また濃いメイクに戻ったのは、コナーから希望を分けて貰ったからだと思います。

ブレンダンがコナーに伝える「悲しみの中の喜びを知れ」。複雑な言葉です。頭で考えないで、心で描くものだと思います。それが学校で撮ったM垢覆里と思いました。コナーの人生には、愛する家庭の平穏も、恋するラフィーナも、友人たちも、みんな必要なのですね。苛めっ子くんの境遇を知り、今までを水に流して、バンド仲間に誘うのも、悲しみの中の喜びじゃないかなぁ。

ラストはちょっとファンタジックな味付けですが、私は気に入りました。若者はアナーキーでなくちゃ!これからの人生、画面通りの荒波が彼らを襲うでしょう。でも思い出して。上から彼らに手を振っていた大人たち。私はあんな上にはいないけど、手を振るだけじゃなくて、手を差し伸べたいと思う。あの中から、きっと私のように思う人たちが出てくるはず。それを忘れないで。今のところ、私の今年の暫定NO・1の作品です。


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