ケイケイの映画日記
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2016年06月30日(木) 「クリーピー 偽りの隣人」




お友達各位で、賛否両論の作品。一般的には否に傾く感想が多くて、本当はパスしようと思っていましたが、映画はやっぱり観てなんぼ。私はイケるくちでした。監督は黒沢清。

大学で心理学を教える高倉(西島秀俊)。彼は元刑事ですが、訳あって退職。郊外の一軒家に妻靖子(竹内結子)と引っ越してきました。隣人の西野(香川照之)は、妻と娘澪(藤野涼子)の三人暮らしですが、得体の知れない何かがある人物です。不審に思っている時、刑事次代の同僚野上(東出昌大)がやってきて、未解決の一家失踪事件を、一緒に調べ直して欲しいと言います。

否定的な意見はわかるんです。随所にツッコミはいっぱい。警察の捜査は杜撰だわ、靖子は不可思議な行動を取るわ、これじゃサイコパスの犯人に、さぁ捕まえて頂戴、ってくらいなもんです。

途中までは、「あの人、お父さんじゃありません」のキャッチ・コピーに、何故ミステリーなのに、ネタばらしするかな?と思っていました。しかし、これはミステリーではないと、次第に思えてきました。サイコパス的な人に洗脳されていく様子を映す、不条理なホラーなんじゃないでしょうか?

冷淡にするかと思えば、妙に馴れ馴れしく靖子に近づく西野。なのに高倉には、「奥さんが我が家を詮索して、気分が悪い」と、怒ります。思えばこれは西野が、高倉夫婦を試したのでしょう。

妻がこれ以降自分に近づかないなら、手を出さず、近づいたなら獲物にする。靖子は後者でした。私はずっと、高倉家の食卓がSNSにアップするような、お洒落な食卓なのが、気になっていました。センスの良い器に、お店のような料理。古い中古住宅の家とは、似つかわしくない生活感。この夫婦が何でこの家選らんだのだろうか?

「引っ越しをすれば、少しでも変わるかと思っていたのよ!」と絶叫する靖子。妻は夫に不満があったのですね。それはわかる。禍々しい犯罪を好奇心いっぱいで追いかけて、趣味と実益(仕事)と言ってしまうような、高倉はそんな男です。ありあわせと言いながら、毎日渾身の思いで作ったはずの料理も、毎日一様に「美味しい」だけで通り過ぎたでしょう。誠実なれど鈍感で、知らずに人を傷つける夫。

そんな日常の鬱屈を抱えた靖子が、「あのチョコ、手作りですか?」の、西野の繊細な言葉が、心に沁みないわけはありません。

でもこの夫婦は破綻していたんでしょうか?いいえ、違うと思う。少しずつ溜まった心の澱は、誰もが持ち合わせているはず。その隙を見つけ、言葉巧みに心に入り込むのが、西野のような男なのでしょう。と言う事は、誰にでも起こり得ることなんだと、ぞっとしました。薬物中毒、中古住宅の中にある、得体の知れない秘密部屋など、あまりにリアリティがないです。でもこれ全部、記号的に感じればいいんじゃないでしょうか?ファンジーでもいいかな?(笑)。

一家失踪事件で、一人取り残された早紀(川口春奈)に高倉は、「あなたは人の心がない!」と言われますが、西野を評す隣人も同じ事を言う。面白がって追いかける輩は、ミイラ取りがミイラになってしまうんですよ、と言う事ですね。

ずっと不穏な空気に包みこまれ、心理的に怖かったです。ラストの高倉の行動は、ファーストシーンに繋がるのでしょう。彼なりに学んだ結果だったと思います。

家族ごと取り込まれ洗脳されていく、一家失踪の家族。人は誰ひとり、放っておかれて、大丈夫な人など、いないのでしょう。高倉は安心していたのですね。家族や友人には常に関心を持っていなければ、と強く思いました。原作はプロットだけ借りて、内容は全然違うとか。こちらも面白そうなので、読みたいと思います。



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