ケイケイの映画日記
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2015年12月05日(土) 「ハッピーエンドの選び方」




人生初めてのイスラエル作品です。それがこんな素敵な作品とは嬉しい限り。老人ホームを舞台に、人生の最晩年を迎えた老人たちの生死感を、悲喜こもごもに描いた秀作。監督はシャロン・マイモンとタル・グラニット。

エルサレムの老人ホームに暮らすヨヘスケル(リーヴ・レヴァシュ)。発明好きの彼は、何かしら作っては、日常生活に活用していました。そんなある日、辛い延命治療の床に伏している親友のマックスから、安楽死の装置を作って欲しいと頼まれます。悩みに悩みぬいた彼は、マックスのために自分で死を決められる装置を発明。マックスは安らかに亡くなります。しかし秘密下に行われたはずの事が漏れてしまい、ヨヘスケルの元には、安楽死の装置の依頼がきます。また悩む彼。しかしその間に、ヨヘスケルの最愛の妻レヴァーナ(レヴァーナ・フュンケルシュタイン)の認知症が進行してしまいます。

監督は男女二人ですが、とにかくユーモアのセンスが抜群。黄昏たお年寄りばかり出てくるんですから、号泣ポイントは雨後の筍の如しです。しかし、さぁ泣こうと思うと、絶妙にブラックな笑いで煙に巻かれてしまいます。そしてその後、しっかりツボを押さえた泣きポイントを持ってくる。お蔭で感情に流されず、重いテーマであるはずの高齢者の尊厳死について、考える事が出来ました。トーンはずっと明るいですが、明暗の分け方が上手いです。

認知症の進行で、ある恥ずかしい行為をしてしまったレヴァーナを庇うため、素っ裸になる友人三人(泣かせるナイスな気配り)が、施設長に咎めらるのを、「許してあげて。体は老人でも心は子供のように純粋なの」と、レヴァーナは庇います。この言葉、私も実感としてすごくわかるのです。事実マックスの安楽死を契機に友情を結ぶ老人たちも、同性愛(おまけに不倫)、お金への執着、人間関係の難しさ、夫婦愛など、老いて益々の若々しさと生々しさです。

私も両方の親4人のうち、3人を見送りました。死は厳粛で荘厳に迎えるのが理想だけど、どれもこれもてんやわんやの騒動の中、実は笑いもいっぱいでした。そして笑ったかと思うと、もう涙。渦中にいる時はわからないけど、傍から見れば、この作品で描く通りの悲喜劇でした。終末医療・認知症など、老後のやるせない事ばかり映し、死に向かって行く人たちを描いているのに、何故生きるのか?とも考えてしまう。死だけではなく、老人の生も描いていたと思います。なので、安直に安楽死を支持した作品だとは感じませんでした。

皺くちゃの年寄りばかり出て来るし、ずっと死にまつわるエピソードばかりなのに、とても瑞々しい作品です。死が悲喜劇なら、生も悲喜劇。楽しい事ばかりは続かないし、泣く事ばかりも続かないと言う事ですね。それを心に留めて、老いへ向かおうと思います。出来れば賑やかに(笑)。


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