ケイケイの映画日記
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2015年02月08日(日) 「さよなら歌舞伎町」




歌舞伎町のラブホテルを舞台に、五組の男女が織りなす群像劇。目新しい目線はないものの、旬のキャスト及びこれから期待されるキャストが演じる事で、新鮮味も出ています。情感豊かな描写が随所にあり、私はとても好きな作品です。監督は廣木隆一。

新宿歌舞伎町でラブホテルの店長をしている徹(染谷将太)は、一流ホテルに勤めていると、同棲しているミュージシャン志望の沙耶(前田敦子)に嘘をついています。韓国から出稼ぎにきているヘナ(イ・ウンウ)は、恋人チョンス(ロイ)には、ホステスをしていると嘘をつき、デリヘルに勤めているが、ヘナの在留許可の日が過ぎ、別れの日が近づいています。ラブホテルに勤めている中年女性の里美(南果歩)は訳ありで、時効間近の康夫(松重豊)を匿っている様子。風俗スカウトの正志(忍成修吾)は、家出娘の雛子(我妻三輪子)と知り合い、エリート刑事同士の理香子(河合青葉)と竜平(宮崎吐夢)は、不倫中。この五組の一日が徹の勤めるラブホテルで描かれます。

135分で五組を描くのは大変だと思いますが、これがきちんと背景やキャラ、心情が浮き彫りになり、交通整理もしっかり出来ていて、よどみなくお話が進むのに、まず感心。一日でこんなにたくさんの出来事が起こるかと言うとのは疑問だけど、これは映画。それは言いっこなしでいいでしょう。

ラブホが舞台なので、当然性描写が頻繁に出てきます。イ・ウンウ、河合青葉など、気持ちの良い脱ぎっぷりで、大胆に艶かしく演じているので、性を通しての喜びや哀しさ、快楽や滑稽さなども、きちんと伝わってきます。もう50代に入った南果歩は、さすがに脱ぎはないものの(これは良識あり)、小柄な彼女が長身の松重豊に飛びつくようにキスするシーンは、年増の深情けを感じさせて、これも生々しくて良かったです。

私が好きなのは韓国人カップルと中年カップルのエピソード。韓国人カップルは、恋人同士で出稼ぎに来たのではなく、日本で知り合っています。異国で恋仲になった同国人カップルは、私の好きなピーター・チャンの「ラヴ・ソング」でもそうでしたが、各々が違う夢を持って異国に来ているので、期間限定の恋人同士になりがちなのでしょう。ヘナも罪悪感からついた嘘のはず。

この二人のお風呂のシーンは、私的にはこの作品中の白眉。「洗ってよ、落ちないかも知れないけど」と言うヘナには、思わず涙がこぼれました。あの客この客、肉体的な快楽だけではなく、心も癒していた彼女を映していたので、そんな事ない!と、スクリーンに声をかけたくなります。

中年カップルの方は、時効を待つと言う執念に溢れているのは、里美だけみたい。康夫の方は早く自首した方が楽だったでしょう。里美が許さなかったと言うより、愛した女の気の済むようにしてやりたかった、と言うのが本音じゃないかな?長身の松重豊が小さくなって、やりきれない表情で狭い押入れに隠れる姿は、哀愁が漂いまくる。日長ぼーっと、息をしているだけの康夫ですが、恋しい男を必死で守れて、里美は幸せだなぁと、私は思います。

この作品の南果歩、本当に普通のおばちゃんに撮ってるんですね。ジャージ着て髪も斬バラ、化粧も適当で、ラブホの掃除に奮闘する姿で、愛する男を守りたい女の一念を見事に演じてるんですね。夫を「世界の渡辺謙」にしたのは、彼女の内助の功もあったはず。偉大な俳優の妻として安住せず、女優としての自分の進化を試みる彼女に、すっかり魅せられました。

五組の数だけ男と女には事情がある。どれも全然違うようで似ているのです。最後の方で沙耶が、「ちっちぇえな!」と、詰るように縋るように徹に訴えた事が全て。隠し事や嘘のない恋人や夫婦っているのかな?それを知った時、己の度量が試される。愛するって、人間の器を大きくさせるもんだと、この作品を観て痛感しました。

AVの仕事を隠れてする妹に「お前、これが初めて(のセックス)か?」と尋ね、「違う」と言われて安堵する徹。「好きな人とやったことがないから、今したい」と正志に言う雛子。本気でヘナに惚れた客の村上淳が、「女の人に香水なんか買ったことがなかったから、選ぶのが楽しかった」と、ヘナに渡したプレゼントなど、陳腐かも知れないけど、私は愛のあるセックスがやっぱり一番だと思う。そうだよ、枕営業くらいなんだよ、許してやれよ、徹!。

前田敦子が出ているので、何とか15Rにしたのでしょう。イ・ウンウや河合青葉、徹の妹役の樋井明日香たちが体張って好演しているので、あっちゃんは少し分が悪かったかも?でも華奢で愛らしいだけではない、女の狡さも出ていたと思いますので、良しとしよう。

たった一つ不満だったのが、震災の事の描き方。徹の実家は震災に合ったと言う設定で、その為学費を払うのに、妹はAVで稼いでいると言う設定です。健気で感心していたら、「前は(安い)ユニクロで買うにも躊躇したけど、今は1万や2万、服にお金払うのも平気」と言うセリフが飛び出します。私は被災者ではないけど、ユニクロは別段安いと思いませんけど?

品質に比べたらお得感があるだけで、ユニクロを買うのは期間限定品だけです。私はお金持ちじゃないけど、世の中被災者でなくても、ユニクロも買えない人はいっぱいいますよ。ここは震災ではなく、どんどん広がる経済格差を訴える設定にした方が良かったと思います。このユニクロ発言で、震災の設定が取ってつけたように感じ、損に思いました。

とまぁ、これも好きな作品なので、惜しい!と言う気持ちが残り、ちょっと書きたくなりました。生々しいセックスシーンも多いですが、薄汚さもないかわりに、透明感もなく、ちょうど良い塩梅に仕上がっています。だから登場人物の気持ちが、手に取るように伝わってきたのだと思います。

会うは別れの始まり。でも別れたくなくて、必死で繋ぎ止めようとする人もいる。罪でも無様でもみっともなくても、それが愛なんだよと思わせるラストシーンがいいです。気持ちよく鑑賞を終えられました。








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