ケイケイの映画日記
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2014年10月04日(土) 「ジャージー・ボーイズ」




先週日曜日、二週間ぶりの映画館でした。なので外しちゃならない時は信頼と安定印に限ると、このイーストウッド作品に。目論見は見事的中。ショービズの世界を描いて、さほど目新しい筋ではありませんが、イーストウッドの手にかかると、青春期の若々しさと、中年期以降の人生の苦さや責任を描いて、円熟の手腕。映画では無名のキャストが主要なので、妙な大作めいた雰囲気がなく、軽やかなのも功を奏しています。監督はクリント・イーストウッド。

1950年のニュージャージの貧民地区。ショービズの世界に憧れを抱くトミー(ヴィンセント・ピアッツァ)、ニック(マイケル・ロメンダ)、フランキー(ジョン・ロイド・ヤング)。トミーとニックはケチはチンピラ、フランキーは昼は理容師として働き、夜はライブ活動に励む日々。よそ者ですが、豊かな才能を持つボブ(エリック・バーゲン)の加入を境に動きだし、バンド名も「フォー・シーズンズ」と改め、ヒットチャートを快進撃で登っていきます。

いやいや、フォー・シーズンズの伝記だべ、とだけの知識で観に行ったので、ブロードウェイの舞台版が元とか、ミュージカル仕立てだとか、全然知りませんでした(笑)。フォーシーズンズは有名なバンドですが、私がティーンの頃にはオールデイズのカテゴリーに入っており、それでも「シェリー」「君の瞳に恋してる」など、今でも歌い継がれている曲はたくさんで、時にはしっとりと、時にはドゥーワップでダンサブルに劇中で盛りだくさんに歌われ、もうそれだけでノリノリ。ライブ場面が多彩で、それだけでも充分楽しめます。

特にブロードウェイオリジナルキャストのジョン・ロイド・ヤングの歌声は素晴らしく、最初吹き替えかと思ったほど。他のキャストも舞台出身者が多く、歌唱は本当に素晴らしい。当時の時代考証に基づいたライブハウスや衣装、風俗などと共に、彼らの生きた時代に、一気に飛んでいけます。

トミーの独白で、貧しい自分たちが成り上がるには、軍隊に入るかマフィアになるか、ショービズだ、の台詞は、今でもどこの国でも大なり小なりある事柄。成り上がる事が目的で、いつまでもチンピラ気質が抜けないトミーと、音楽に情熱を持つフランキーの間に、次第に亀裂が走るのは致し方ない事だったのでしょう。

内容的には、バンド活動に励みながらも女の子にちょっかい出したり、警察に出たり入ったりの三人の青春期、品行方正なボブが加入してからの違和感、ヒット街道をひた走りする四人の姿、各々少年から大人となり、自意識の隔たりから、自我をむき出しにする者、我慢する者、辛辣に批判する者など、彼らがどうして不協和音を生じるようになったか?を丁寧に描いています。

スタートは一緒でも、人としての成長の度合いは個人差があるもの。不良感度の高かった無名時代から、端正なスーツに身を包み、ショービズのど真ん中で快進撃を続ける彼ら。外見に中身が追い付けなかったトミーに、身の程以上の者を得た人間の悲哀も感じます。

ツアーの連続で家族との軋轢、その果ての愛人、ギャンブルでの借金。取り分の変更など、ショービズで成功した人を描いて、既視感がある内容ですが、要所要所に、その時の心模様を彼らのヒット曲に託して歌い上げるので、しっとりと胸に響きます。いや〜、字幕がないと何言っているのかわからないはずなのに、言霊を感じるんですから、歌ってすごいなと、しみじみ思います。

彼らを応援する大物マフィアの役で、クリストファー・ウォーケン。滋味深さと怖さが混濁する役柄で、鋭角的な若い頃より、だいぶ顔が下垂してきた今のウォーケンが演じると、画面を引き締め若いキャストばかりの映画の格も押し上げるのですから、大した役者だわと改めて思いました。

そしてフランキーの取った行動など、正に「ラ・ファミリア」を感じさせるイタリア系。愛憎相打つ中、義理人情を優先する彼の生き方は、若い人にはどう映るのか?私は素直に立派だと思いました。金銭的にはシビアで、優男の外見に似合わず冷徹なボブの気持ちを動かしたのは、そんな情に溢れるフランキーを心配する気持ちでした。彼の歌声は、冷めた心も溶かす力があったのでしょう。「君の瞳に恋してる」で、まさか泣くとは思いませんでした。


恩讐を超えた再会の時、ラストの大団円の見事なダンスシーンなど、とても気持ちよく見終える事が出来ました。ポランスキーもそうですが、老いて重厚さだけではなく、軽やかに描きながらも、しっかり観客の心を掴むイーストウッドに脱帽です。


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