ケイケイの映画日記
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2014年09月09日(火) 「イン・ザ・ヒーロー」




素晴らしい、素晴らしい!何度でも言っちゃおう、素晴らしい!今では大味だなんだと、ハリウッド大作には文句垂れている私ですが、本格的に映画に魅せられたのは「ポセイドン・アドベンチャー」でした。その後「ジョーズ」や「エクソシスト」などのハリウッド大作にまみれておきながら、大人に近づいた頃には、青臭いちょっとしたシネフィル気取りの頃もありました。今思い出すと、死ぬほど恥ずかしい。この作品はローティーンの頃の、ハリウッド映画に熱狂していた自分を思い出すのです。いつ来て過ぎたんだかわからない今年の夏より、何十倍も熱い作品。監督は武正晴。

ベテランスーツアクターの本城(唐沢寿明)。ブルース・リーに憧れてアクション俳優を目指すも、いつまでも顔出しの出来ないスーツアクターに甘んじる日々。しかしまだまだ希望は捨てていません。そんな役者バカのお蔭で、妻子(和久井映見・杉咲花)には愛想付かされ、去られています。やっとの事で子供向け戦隊もので主役を得るも、寸でのところで新進俳優の一ノ瀬リョウ(福士蒼太)に主役を持っていかれます。それでも腐らない本城に、リョウのマネージャー(小出恵介)は、彼にアクションを教えてやってほしいと言います。しかしジャリ番(子供向け作品)だとバカにするリョウを、本城は自分のアクションチーム「HAC」に連れて行きます。

主演の唐沢寿明、同僚吾郎役の寺島進は、かつて本当にスーツアクターだったとか。そして本当にブルース・リー大好きの唐沢寿明、めちゃめちゃ俊敏な動きで、回し蹴りなんか、とっても早いの!唐沢寿明は私とほぼ同世代なんですが、「燃えよドラゴン」公開時は、そりゃ信じられないくらいの大ブームで、当時小学校高学年〜高校生だった男子は、みんなヌンチャク使えると思います(きっぱり)。品行方正で端正な二枚目役の印象が強い彼が、こんな大バカもん(褒めてます)の役柄で、私の心に火をつけてくれるとは、嬉しい誤算です。

前半は、戦隊モノのアクションシーンのネタバレあれこれ、モーションチャプターは、彼らスタントマンやスーツアクターが演じているなど、ちょっとした内幕風演出が、映画好きには嬉しいです。常に怪我との戦いである彼らは、とにかく己に厳しく練習します。その風景も清々しく、大人のスポ根を観ているようで、またまたテンション上がる私。一人で練習しても、本番は散々だったリョウは、頭を下げて本城に教えを乞います。

映画好きなら、アクションにはアクション監督がいて、きちんと怪我をしないような振付があると知っていますが、素人に毛が生えたようなリョウは、その事は知らなかったのでしょう。そんな人が一足飛びで主役を張り、超がつく一流のアクションが出来る本城はスーツアクターのまま。芸能界の悲哀を見ます。

「アクションはリアクションがあって、初めて成立する」と言う本城。そうなんですよね、時代劇の殺陣でもアクションも、名も無きウケに回ってくれる人が居てこその華。映画はその他美術さん、照明さん、地味な裏方の協力あってこそ作れるものだ、チームワークなんだと、しみじみと思わす描き方に、映画好きの私はまた感激。小道具を粗末に扱うスター俳優リョウに臆せず、「こいつがなぁ、その時計何日徹夜して作ったと思ってんだ!」と、弟子を思う小宮泰隆の小道具さんの恫喝は、良い作品にするため貢献していると言う、美術さんのプライドが溢れていて、やっぱり熱い。

とても素敵だったのが、吾郎の結婚式のシーン。和気藹々と弾けながらも、彼らがスーツアクターとして、自分たちの仕事を愛しているのが、わかるのです。本城の妻も、かつては夫と同じ夢を見ていたのだと、さりげなく挿入されるビデオも良いです。

改心して成長していくリョウ。ここまででも充分楽しませて貰っていたのに、ここから怒涛の展開に。CGやワイヤーなしの鬼畜なアクションシーンを要求するスタンリー・チャン(イ・ジュニク 本物の韓国の監督)に恐れをなした香港のスター俳優は役を降り、白羽の矢が立ったのは、本城でした。これがもぉ〜、本当に浪花節なんですが、もうここから涙が止まりません。皆が止める中、吾郎だけが本城の気持ちがわかると言う。誰の為でもなく、自分の為に引き受けるのだと言う本城。

本城の設定は唐沢自身と重なる50歳前後の年齢設定だと思います。彼を観ていると、夢をあきらめない人生の、何と豊かな事かと羨ましく思いました。諦めないから、希望がある。いい年なのになんて、全然思わない。だって彼は努力し続けているんだもの。愚痴やぼやきがいっぱいで、口先だけで御大層な事言う人とは、真逆な人なのです。自分が輝く事で、周りも照らされる。人生のおいての理想だと思います。

ラストの長時間のアクションシーンは圧巻。実際には長回しではないし、CGも使っていますが、どっぷり本城及びアクション俳優たちにのめり込んで観ているので、全く気になりません。それどころが、こんな気合の入ったアクションは久しぶりです。正に全身全霊と言う言葉がぴったりで、例え唐沢寿明にスタントを使ったとして、私に感動をもたらしてくれたのは、作り手一丸となった、チームワークの賜物です。映画はチームで作るものなんだよね!

愛想を尽かし切れなかった妻子の描写も良いです。和久井映見の奥さんは、桂春団治の女房みたいでした(笑)。妻が本城を見限れなかったのは、本城の夢は趣味ではなく、命がけの男子一生の仕事だったからだと思います。和久井映見に感激した人は、そこんとこよろしく。

チャン監督は、何度も「映画は監督のものだ!」と言いますが、あれは皮肉でしょうね。映画はお金を出すプロデューサーのもんと言うのは、定説です。。プロデューサーの一声で、内容まで変わってしまう。ディレクターズカット版なるものは、一種の仇花的なもんですかね?それでも良い作品を作るのが、作り手さんたちの、腕の見せ所でしょうか?

「HAC」と言うのは、千葉真一が主催していた「JACK」をもじっているのでしょうね。真田広之、志穂美悦子、伊原剛志が在籍していましたが、今では演技派として名を馳せていても、アクションはないなぁと、少し寂しかったり。年齢的なものもあるでしょうが、後続の役者さんは続かなかったようです。何故なのかな?そこもちょっと寂しいですね。

体中の血が活性化されたようで、モリモリ元気になりました。本当はね、リョウの背景なんか説明不足で、省いても良いような安っぽいもんです。それでもその安さまで感動に置き換えさせて貰ったんだから、問題なし。やっぱり映画は人生に夢と希望を与えなきゃ。高校生の時読んだ淀川先生の著書で、「映画をたくさん観て感受性を磨き、自分の人生に生かしなさい」との記述は、私の一生の宝物です。これからも作り手さんに負けないよう、私も一生懸命映画を観たいと、改めて誓いました。熱くなったもん勝ちの作品。


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