ケイケイの映画日記
目次過去未来


2014年05月05日(月) 「おとなの恋には嘘がある」




バツイチ中年男女のラブコメ。男女の事情は万国共通なのよねぇと、クスクス笑いながら痛感する作品。主演のジュリア・ルイス=ドレイファスと、ジェームズ・ガンドルフィーニは、奇しくも私と同じ年。そのせいかバツなし街道32年の私にも、胸にストンと収まるお話で、大いに楽しみました。監督はニコール・ホロフセナー。

出張ボディセラピストのエヴァ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)は、離婚後一人娘のエレンと暮らしていて、もうじき大学入学のエレンは家を出て、独り暮らしが始まる予定。あるパーティーで詩人のマリアンヌ(キャサリン・キーナー)と意気投合。さっそくマリアンヌはエヴァの顧客となります。一方エヴァは、そのパーティーで知り合ったアルバート(ジェームズ・ガンドルフィーニ)からアプローチを受け、デートを重ねて恋人同士に。しかし容姿から趣味から完璧なマリアンヌが、人生で唯一失敗した結婚相手は、何とアルバートらしいと判明したから、さあ大変!

酸いも甘いも噛み分けた中年男女の恋の始まりの様子の、気さくさと初々しさのブレンド具合が非常によろしい。なぜ離婚したか?子供はどうしているか?元の連れ合いとのセックスは?等々、赤裸々に語り合うも、初回のデートでは次に含みを残しながらもキスはなし。これが駆け引きではなく、軽はずみな行動はしたくないと言う大人の嗜みなのですね。二人の誠実さを表しています。

でも二回目のデートでベッドインすんの(笑)。これもね、中年だから仕方ないですよ。だって時間がないもの。少々ぎこちないながらも、二人が新たな自分のステージにときめいている感じが伝わってくるので、ふしだら感はありません。その後の様子も年甲斐もなくラブラブでイチャイチャではなく、長年連れ添った夫婦のように自然です。真面目なお付き合いなんだなと、二人共にすっかり情が移ってしまう私。

エヴァは仕事柄か、俗に言う「感じのいい人」です。絶えない笑顔に、さりげなくその人の長所を見つけて褒めるのも上手い。誰とでも程よい距離感で付き合える人です。しかしこれってね、悪く言えば八方美人なわけ。そして人の意見に左右され主体性がない。でもこれもね、理解できますよ。一度失敗しているので、次は失敗したくないし、そもそも離婚したことで、自分の男を見る目に自信がないのでしょう。この面倒臭さも中年の恋ならでは。情熱にかまけて、猪突猛進で良かった若い頃とは違います。

そうとは知らぬマリアンヌから、アルバートの悪口を聞かされ続け、感化されまくりのエヴァ。でも事実を知るまでは「良かった」セックスも、ダメに感じるのは如何なものか?マリアンヌが嫌いな部分も、自分にとっては好きな部分かも?ですよね。

と、段々イライラしながら見ていたら、娘のエレンの父親と再婚相手が登場します。それまでこき下ろしていた元夫。再婚家庭が上手く行っているのは、現嫁も変だからだって(笑)。しかし元夫は紳士的な人で、今の妻も常識的な人でした。数々の会話から、夫婦や男女は相性に尽きるんだなぁと、今更ながら実感出来る演出です。

大人の恋愛事情と並行して、進学を通して親離れ子離れが描かれますが、これも小ワザの演出にリアリティがいっぱい。中年の恋には、子供の存在は欠かせないもんですからね。「昨日は何食べた?」と聞いて娘に煙たがられるエヴァですが、これは私も聞きますよ。ちゃんと御飯食べたのか心配だもの。一食くらい抜いても死にゃしないんですが、母親の本能ですかね?うちの息子たちはちゃんと答えてくれるので、なんて優しいのかしらと、ちょっと嬉しかったり(親バカです)。本筋ではクスクスニヤニヤしていた私ですが、エヴァが空港で娘エレンの旅立ちを見送るシーンでは、もう滂沱の涙。一緒に見送った元夫が、「良い子に育ってくれた」と語りますが、それはエヴァに対する最大の労いだと思いました。

エレン、アルバートの娘テス、エレンの親友クロエなど、三人三様に親の庇護から脱却したい、いやいやまだママやパパの子でいたいの、くるくる変わる思春期の子の真っ当な感情も、愛情たっぷりに描けています。

ジュリアはこの作品で初めて観ましたが、キャリアは長いそうで、自然な中年女性の雰囲気が好感が持てます。演技が明るのも良かった。ガンドルフィーニは、よく見かける人ですが、主演は初めて観ました。確かに肥満気味ですが、男性にとって押し出しが効くのは大きなチャームポイント。ちょっと鈍感で大味な感じも、大らかさに通じて、とても素敵です。しかしながら彼は昨年亡くなってしまい、これが遺作となっています。この作品の成功で、きっとオファーもたくさんきたでしょうに、本当に残念です。

さぁ二人の恋はどうなるのでしょう?傷つき戸惑い胸が張り裂けるのは、若い時と同じ。男女は縁と相性だけど、その縁は自分で必死で手繰り寄せたっていいじゃない。面倒くさくたって煩わしくたって、喜びも哀しみも分かち合う人がいる人生は良いものだ、と私は思います。人生下り坂でも、恋をしましょうと言うお話。但し真面目な恋愛に限るって事ですね。


ケイケイ |MAILHomePage