ケイケイの映画日記
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2013年05月03日(金) 「ハッシュパピー〜バスタブ島の少女」




6歳と言う史上最年少でオスカー候補となった、クヮベンジャネ・ウォレスちゃんの主演作。観れば候補も大納得。とにかく目を見張るほど魅力的です。彼女の旺盛で逞しい生命力が、作品の粗なんか蹴散らしちゃってます。監督はベン・ザイトリン。

長々と伸びる堤防のよって切り離され、ポツンと浮かぶバスタブ島。そこは文明からかけ離れた生活をする人々がコミュニティを作っていました。6歳のハッシュパピー(クヮベンジャネ・ウォレス)は、そこでパパのウィンク(ドワイト・ヘンリー)とふたり暮らし。ママはハッシュパピーが赤ちゃんの頃、島を捨てて出て行ったようです。自然や動物たちと共存する島で、毎日がお祭りのようなバスタブ島。しかしウィンクが重病の侵されているのが発覚。そこへ100年に一度の大嵐が、バスタブ島を襲います。

まぁ〜汚い汚い!自然と共存と書きましたが、アーミッシュのようにナチュラルに生活しているのではありません。共存と言うより野生のままの生活です。部屋はゴミだめだわ、家の中は泥まみれだわ、ご飯は鷄の丸焼きを手づかみでちぎって食べ、「犬と分けろ」だって・・・。もちろん動物(家畜じゃありません。ペット。でも時には食べるんだって)は家に入り放題。ホームレスの小屋の方が、もっとましな気がします。ここで子供を育てるなんて、卒倒しそうだわ。

しかし怒鳴ってばかり、時には殴るパパですが、それでも娘への愛情がいっぱいなのは、わかります。ランニングとパンツの下着姿で外に出る娘に、「ズボンをはけ!」と怒鳴る様子は、父親だからです。パピーの方も笑顔を向けるのでもなく、始終父親を睨みつけ、「死ねばいいのに!」と悪態をつきます。普通の親子の慈しみなどまるでないのに、強いを絆を感じます。

愛情いっぱい褒めて育てろとか、神経質になるほど清潔にしたりとか、今の子育てから見ると、まるで逆向の二人ですが、なのにこの健やかさと強靭な生命力は何なんだろう?とにかくひ弱い所が、まるでない。この父親は、娘を抱かないなぁと思っていたら、パピー曰く、生まれて抱っこされたのは、二本の指で足りるのだとか。しかしその二回は、「親の役目は、子供を生きさす事だ」と言う、パパの信念を表すシーンでした。

バスタブの人達は、どんな仕事をしているのか?お金は?人種も様々で、どんな理由でたどり着いたのは、いつから住んでいるのか、説明はありません。猛獣が出てきたり、地球の温暖化の話もちょこっと出ますが、スパイス程度。ファンタジーとして観て下さい、と言う事なのでしょう。その割に劣悪な衛生状態から、国から強制的にバスタブの人々を保護する様子など、生々しい描写もあります。謎が多いけど、あまりのバスタブの人々の力強さに敬意を表し、素通りしようと思います。

保護所でのパピーは、綿帽子のような髪をなでつけられ、可愛いワンピース姿。これがコスプレですか?と言うくらい似合わない。一度バスタブの女の子たちと、海を渡って本土に行ったパピーですが、母の思い出の鰐の唐揚げを手に、また島に戻ってきます。何度も「ママ」と、夜空に語りかけるパピーでしたが、想像だけの母は、遠くにありて思うものであり、現実には誰よりパパが大切なんだなと、このシーンには涙が出ました。

この環境は子育てに適さない、この人たちは保護されて当然の人、と思うのは、私の驕りなのかなと、観ていて段々感じるのです。アメリカは劣悪な環境の子供の保護は、進んでいるはず。もしかしたら、強引すぎるきらいがあって、この作品は、そこを疑問視しているのかと感じます。愛している、大切だと、一言も言い合わない父と娘。深い絆で結ばれながら、しかし世界で二人きりでもない。子供を託せる人もいる。劣悪な環境ですが、環境が整っていても、そこは魂のない箱のような子供より、よっぽどパピーが幸せに感じました。

パピー達がたどり着いた本土で、連れて行かれたのは娼館です。それも安物の。しかしパピーたちを見るなり、「まぁ可愛い」と嬌声をあげる彼女たちは、客へ向けた声とは明らかに異なります。セックスして孕んでも、生む事は許されない女たち。ダンスしながら、ひと時の温もりを貰ったのは、娼婦たちだったかも知れません。こうやって、大人は子供に力を貰っているのです。

「主演女優」を観るだけでも、一見の価値のある作品。音楽も力強いリズム感があって、とても画に合っていました。私は大好きな作品です。


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