ケイケイの映画日記
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2012年07月06日(金) 「昼下りの情事」

タリラリタッラッタリ〜ラ、タリ〜ラ♪観て一週間経ちますが、まだ頭の中は「誘惑のワルツ」が流れております〜。ヘップバーンの作品では一番好きなこの作品。私が思春期の頃、淀川さんの「日曜洋画劇場」で観て、何てロマンチックなのかしらと大好きになった作品。ヘップバーンで二番目に好きなのが「麗しのサブリナ」なので、大好きなビリー・ワイルダーが監督だからだと思っていましたが、さにあらず。当時中学生だった私は、ゲイリー・クーパーに夢中になったのを思い出したのです。この作品の肝とも言える「アリアーヌ」と言うヘップバーンの役名は忘れていたのに、クーパーの「ミスター・フラナガン」は、バッチリ覚えていたのだなぁ。「午前10時」では見逃したものの、梅田ガーデンシネマのクラシックウィークで、劇場初体験してきました。とにかく素敵だったの、本当に感激!

舞台はパリ。音楽学校でチェロを学ぶ真面目な女学生のアリアーヌ(オードリー・ヘップバーン)。母は亡くなり父親(モーリス・シュバリエ)とふたり暮らし。父の仕事は私立探偵で、主に男女間の仕事を扱っているようです。今回の仕事は妻の浮気を勘ぐる夫からの依頼で、相手はアメリカの大富豪フランク・フラナガン(ゲイリー・クーパー)。写真で見るフラナガンのハンサムぶりに魅了されたアリアーヌは、彼の危機を機転で救います。以降自分のプライバシーは秘密にして、プレイガールを装いフラナガンと付き合う彼女でしたが・・・。

1957年のモノクロ作品。実に55年も前のラブコメなんですね。子供の頃はわかりませんでしたが、今観ると、とにかく上品で洗練されています。そして今回は発見もあり。ただデートしているだけだと思っていた二人でしたが、今回の再見ではちゃんと「事後の後」的雰囲気があり。最初の方ではベッドルームを観るだけで恥ずかしさいっぱいだったアリアーヌが、その内逢瀬を重ねて、ベッドルームの横で髪を整えているんですね。あれ?!と、とてもびっくり。う〜ん、でもこれでアリアーヌが本当はおぼこ娘だとわからないのは、ちょっと解せませんけどね。

まぁそんなツッコミは止めておこう。彼女は父の調査書を「私の図書館」と呼び、愛読していたわけです。そりゃ耳年増になって、言い寄る若い男友達なんて、子供に見えるでしょう。恋に奥手の文学少女なんかにも有りがちなことです。実話を元にした創作なんですから、フラナガン氏が騙されるのも無理ないですね。

気の毒なワンちゃん、楽隊の楽しい様子、ワゴンでのお酒のやり取りなど、大らかに時が流れる中のユーモアが楽しい。映画は所詮作り物なんですが、その中に描かれる「真実」が垣間見られると、とても印象に残るものです。ドラマではなく軽いコメディなら尚の事。「パパ、愛してるわ」「パパはもっとだよ」が二度繰り返されますが、この親心の真理をついた台詞、昔は素通りしていた台詞なんだなぁ。恋の駆け引きも、自分の素性を知らせず「謎の女」を演じて気を引くのは王道なんですが、本当は相手に夢中なんだから大層難しい事のはず。でもそれをやってのけられるのは、アリアーヌの若さなんじゃないでしょうか?年の差恋愛は、それだけで若い方が優勢だもの。





で、これが私が中学生の時も今回も夢中になったフラナガン氏=ゲイリー・クーパー。素敵でしょ?この時56歳だったそうですが、ダンディで紳士で、年齢がちゃんと魅力に加わってました。大富豪のプレイボーイだと言うだけで、背景も語られない彼ですが、一心にフラナガン氏に忠節する楽団員を観ていると、フラナガン氏の人となりも浮かび上がってきます。恋はしても愛することはしない彼。もしかしたら、愛した人から裏切りにあい、だから「愛」には臆病になり、短期間の恋人漁りするのかもなぁ〜と、徒然に観ながら想像したのも楽しかったです。

オードリーは当時28歳。でも20歳前後にちゃんと見えちゃう。鼻にかかった甘い声も可愛らしく、グラマラスな美女ばかりの往年のハリウッド女優の中、今思えば彼女は超個性的なはずなのに、「痩せっぽちさん」は楚々として可憐なのに、何故か堂々の風格が備わっていて、これがその人が生まれ持っている品格なのですね。

ラストの列車のシーンは、昔はどうなるんだろう?とドキドキしただけだったんですが、今回はその切々たる乙女心に思わず涙が出ました。アリアーヌにとってフラナガン氏は、「恋しい」人で、愛している人ではありません。「パパ、愛しているわ」は、彼女が愛しているのはパパだけと言う事でしょう。男女の愛はすぐに愛が始まるわけじゃなく、恋して愛するものだと思う。フラナガン氏もアリアーヌとなら、もう一度女性を愛せるかも?と思ったんでしょうね。パパの願いと異なる幕切れにも、笑顔を見せるパパ。誰よりも愛する娘でも、娘の人生は娘固有のもののはず。あの心からの笑顔には、父親の娘への信頼の深さが感じられ、私も親として教えられました。

若い時より何倍も深まった鑑賞が出来た気がします。若いときの感受性って、瑞々しいけれど、結構貧しいものなのかも?自分の人としての成長もちょっと感じられる嬉しい再見でした。


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