ケイケイの映画日記
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2010年06月10日(木) 「告白」




原作は読んでいます。まず読まれた方なら誰もが思うのは、これをどうやって映像化するのか?と言う点でしょう。監督が大好きな中島哲也なので、それなりに安心して鑑賞に臨みましたが、想像以上に上手く作っていました。独特のケレン味も控えめで、オーソドックスに脚色しているのに、原作の持つ、「超面白いけど嫌悪感がいっぱい」の持ち味を上手く薄めて、面白さを上手くすくい取った感じです。観方は色々あると思いますが、私は決してやりきれないラストだとは思いません。

ある中学の学年末の終業式。一年B組担任の森口(松たか子)はこの学年限りで学校を去る前に、生徒たちに命の大切さを説いていました。森口はシングルマザーで、つい最近娘の愛美を、事故で亡くしたばかり。しかし愛美は事故ではなく、このクラスの生徒に殺されたと言うのです。

冒頭から淡々と空恐ろしい本音を生徒に語りかける森口。もう原作そのまんま。映像化は難しいかなぁと思っていた場面も何なくクリア。これは演出もですが、松たか子の抑揚を抑えながらも、深々と魂に宿る怒りを感じさせる独白が圧巻だったからでしょう。中島哲也というと、極彩色に彩られた画調が浮かびますが、今回は少し寒々としたブルーが基本の色調です。その中で真っ白の牛乳の怖さ、真っ赤な血のグロテスクさが、一層浮き上がります。

殺人犯がクラスの中にいるということで、正義を気どり陰湿にいじめを重ねるクラスメート。現実では親に誰一人この現実を「告白」しないのは変だし、事件の影響で心に変調をきたしてしまう子もいるはず。第一進級したら、クラス変えもあります。しかし作品は、心と体が著しく成長、そのギャップに不安定になる時期だからこそ、暗いエネルギーを一致団結させる彼らを描く事に、力点を置いています。彼らは中二。そこにこの作品のテーマである少年犯罪とを、掛けているのでしょう。

原作では、日記や独白で各々登場人物が自分を語ります。その内容が、日記や独白なもんだから、自分を美化及び正当化したものなので、欺瞞と傲慢がいっぱい。鼻もちならなかったり、怒りがこみ上げたりするのですが、それらを巧みに取り入れながら再構築した脚本も上手いです。少年犯罪の根源には、ネグレクトや放任、それと真逆の過干渉や母子密着、父親不在があると匂わせながら、どちらも子供の「真には親に認めてもらえない孤独と寂しさ」を、浮き彫りにしています。

嘘八百並べる登場人物の中、唯一最後まで本当のことしか語らない森口。クール過ぎて残忍な心ばかりが浮き上がり、同情は出来るけど共感はし難かった原作の森口ですが、松たか子は、その難しい森口にも赤い血が流れているのを実感させてくれます。復讐では何も癒される事はない、とはある人物の言葉ですが、劇中で流れると何と白々しい言葉よ。日頃から少年法の限界に疑問がある方は(含む私)、自分の手で制裁を加える森口に、共感出来るのではないでしょうか?

他に描き方で良かったのは、木村佳乃のバカ母。自分の子供が犯罪を犯しているのに、自分の子が可哀想と泣き、引き込もりになるも、いつもエレガントで美しいまま。子供を溺愛するって、これ自己愛なんだわと、思わず目から鱗でした。だから「愛」ではなく「恋」なんですね。彼女が及ぼうとしたことも、親としての責任じゃなく、自分の幻想が壊れたから。案外上手くいってそうに見える母と子も、一皮むけばこれと同じじゃないかと感じ、薄ら寒くなります。

「あなたたちに命の大切さを知って欲しい」と、何度も繰り返す森口。と言いつつ、全く正反対の行動に出る彼女。テーマの一つであろうこの言葉が何度も出てくるのに、これほど命が軽く扱われる作品も珍しいです。それが逆に、「命」って何だろう?と問題定義しているように感じました。そのせいか、作品の中で重大な役割を担うHIVについて、正しい知識を得られるように描いていました。

よくもこれだけ根性悪く、そして面白く書けるもんだわと、原作を読んだ時感嘆したので、後味の悪さはあまり感じなかったのかも?でも原作にはなかったラストの森口の、「なーんてね」という笑顔には、原作には描かれきれなかった、生徒と刺し違えても復讐を果たしたいという彼女の切なる母心が感じられて、とても溜飲が下がりました。子供たちよ、大人を舐めちゃいかんのだよ。そして子供に舐められる大人になっても、いけないのです。


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