ケイケイの映画日記
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2009年11月29日(日) 「今、このままがいい」




2009年大阪韓国映画週間と題されて、28日と29日だけ私のホームグラウンドの布施ラインシネマで、未公開作品が上映されました。三本上映されましたが、私は時間の関係で二本目の「今、このままがいい」だけを鑑賞。いやもうびっくり。普通はトンデモに転んでもおかしくないオチなんですが、もうびゃーびゃー泣いてしまって。恐るべし韓国映画、底力を観た思いでした。

済州島で生まれ育った姉ミョンジュ(コン・ヒョジン)と妹ミョンウン(シン・ミナ)。二人は異父姉妹。ミョンジュは若くしてシングルマザーとなり、母親と島に残り鮮魚店を営み、伯母、娘と住んでいます。ミョンウンの方は学業優秀で、今はソウルに住みバリバリ仕事をこなしています。母の死を契機に久しぶりに会う姉妹。これを契機に父親を知らないミョンウンは、父の記憶が残るミョンジュを引き連れ、全州まで父親探しの旅に出ます。

対照的な姉妹の描き方が上手いです。姉は学がなく無邪気で奔放、しかし情には厚くいつも笑っているような女性です。対する妹は学があり仕事のキャリアもあるが、いつも無愛想で冷たい印象です。一見私生児を生み学校へもいかなかった姉をバカにしているようなミョンウンですが、回想場面で、「世間の人がうちの事、なんて言ってるか知ってる?”父なし子の家”よ!」と叫びます。ここに彼女の辛さが集約されています。

姉ミョンジュの父親は婚姻関係中の死亡ですが、自分は私生児で父は自分が生まれているのを知っているのに、会いにも来ない。顔さえ見た事が無い父の記憶を、実の娘でない姉は持っている。その姉がまた私生児を生む。私の哀しみをわからないのだ、だからこの姉はこんなふしだらなことをする・・・。ミョンウンが真面目すぎるほど真面目で融通が利かず、女性らしい柔らかさに欠けるのは、彼女の眼に映る母や姉の「ふしだらさ」が自分にも流れているという嫌悪感でしょう。自分の身を守る術なのです。

しかし女性がシングルマザーの道を選ぶと言うのは、どこの国も並大抵の決意ではないでしょう。ちゃらんぽらんに見えるミョンジュとて、一大決心があったはず。そして私の目には、良い母ちゃんに彼女は見えます。その部分がミョンウンにはわからないのでしょう。

それは何故か?ミョンウンが両親、取り分け父に対して複雑な愛憎を抱いているからに他なりません。対するミョンジュは、ミョンウンの父親の優しかった思い出があり、同じシングルマザーで二人の子を育てた母の気持ちが、自分も同じ立場になって理解出来るのでしょう。「普通でない家庭なんて、いくらでもあるわ」。ミョンジュの善良な屈託のなさは、いい加減なのではなく、自分の出自や今の境遇を、彼女が受け止め受け入れているからに他なりません。

全州への旅は、大げんかありアクシデントありで、さながら珍道中の趣ですが、個性の違う微妙な関係の姉妹の葛藤と情と歩み寄りを、丁寧な語り口で情感豊かに描いています。私なんぞ何度泣いたことが。しかしここでミョンウンの父親の秘密が明らかになると、口あんぐり。Z級のオチなのです。確かに伏線は張っていました。しかしこちとら、姉妹の心の変遷にすっかり感情移入しており、Z級がわかっても涙が止まらない。もう狐につままれた気分でした。

秘密は姉にとっても傷つく事柄でした。しかしこの姉は、そのことも大らかな気持ちで受け入れていたのです。真実がわかり泣きじゃくる妹が、姉に心も体も抱いてもらうシーンで、また泣く私。ラストは、家庭の在り方に価値観が統一されていると思っていた韓国でも、様々な形態が認められつつあるのだと、感じました。

シン・ミナは綺麗になっていてびっくり。韓国人気質とは異質のクールビューティーを好演すれば、コン・ヒョジョンは全身からケンチャナヨ精神を発散するミョンジュを、能天気とは紙一重の大きさで演じて、秀逸でした。

日本ではDVD化もしていません。でもどなたが観ても普遍性を感じる良い作品なので、ネタバレなしで書きました。どこかでご覧になる機会があれば、お勧めしまう。


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